第28話〜シャドウウルフ


謙一がソレに気付いたのは偶然、もしくは必然だったのかもしれない。


登った木から見てほんの数メートルの距離を一匹のモンスターが歩いていた。


大きさは成人男性とほぼ同等。


闇に紛れる漆黒の毛並みと赤い瞳。


比較的危険度の低いこの森では中堅どころのモンスター、シャドウウルフだ。


冒険者ギルドが発表しているシャドウウルフのランクはE。


下から3番目というと大した強さはないように思えるが、しかしモンスターのランクは冒険者同級複数人を想定している。


つまりEランクのモンスターを倒すには同じE級冒険者が最低でも3~5人は必要となるのだ。


近づいてくる足音を聞いて目を覚ました謙一は、声も出せずに息を飲んだ。




ここで冒険者ギルドが定めるランクと級について説明しよう。


ランクとは確認されているモンスターの強さや特性に応じてつけられる、おおよその難易度だ。


最弱のモンスターの代名詞、ゴブリンは単体ではGランクとされている。


冒険者たちは駆け出し冒険者をゴブリン級などと揶揄することもある。


冒険者のランクはA~G級の7段階で表され、G級は一般的な成人男性と同程度とされている。


余程の功績、実力を見せたものはランク外、S級の称号が与えられるのだ。


先ほどの説明を踏まえれば、成人男性が複数人いればゴブリンなどは簡単に討伐できる。


武装していれば一人でも討伐することは可能だろう。


しかしゴブリンを含め、モンスターの討伐依頼は最低でもEランクとされている。


ゴブリン討伐依頼もEランクだ。


これはなぜか?


モンスターの想定ランクは基本的に一対一の状況を真正面から行うことを想定されているからだ。


誤解されがちだが、最弱モンスターであるゴブリンは単体でいることはほとんどない。


つまりゴブリン討伐は基本的に複数のゴブリンを相手取ることが前提条件なのだ。


ゴブリンに限らず、モンスターは基本的に群れで行動する。


そのため冒険者ギルドでは同等ランクの討伐依頼は複数人でのパーティーでこなすことを前提としているのだ。


もちろんランクや級によっても実力差は存在する。


E-ランクであればE級冒険者でも単機で討伐可能。


E+ランクであるならばE級冒険者パーティー、もしくはD級冒険者単機でという具合だ。


もちろん特性や状況にも左右されるが。




さて、Eランクのシャドウウルフだが、単体であればその強さはFランク程度だと言われている。


これはF+ということではなく、普通のFランクだ。


普通の村人でも討伐隊を組めば、10人もいれば簡単に討伐できるだろう。


もちろん群れであればその難易度はD+ランクにまで跳ね上がる。


これはシャドウウルフの特性に由来する。


シャドウウルフは夜行性で、闇に紛れて狩を行う。


Cランク冒険者であっても夜にシャドウウルフの群れに襲われれば生命の保障はない。



森の奥から現れたシャドウウルフだか、珍しいことに一匹だけだった。


見れば前足や胴体に複数の咬み傷や切り傷がある。


どうやら群れの中でボス争いに負けたか、他のモンスターとの縄張り争いで生き残ったらしい。




単体とはいえ夜の森である。


負傷していてもE+からD-程度の難易度はある。


つまり、冒険者のノウハウも戦う技術もない謙一では間違っても正面から勝つことは不可能な相手である。

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