第20話〜犬人族のコウユウ⑥

ボクは今、両手で服を上げてお腹を見せるようにしながら、床に転がっています。


「クゥーン…」


無意識に自分でも情けないな、と思えるような声が出ます。


その方からは、なぜか無条件で降伏してしまいそうになる気配がしました。


そして気づけばボクはお腹を上にして、目の前の白い女の人に見せていたのです。


本能的な行動、というやつです。


白くて、綺麗で、なぜか目が離せません。


無表情で、だけど何か無理をしているような顔。


見た所耳も尻尾もありませんが、間違いなくボクたち犬人族よりも上位の存在です。


お父さんに聞いたことがあります。


人の姿にも獣の姿にもなることができる、ボクたちにとって崇めるべき存在のこと。


「テルン。なんでこの子は私にお腹を見せながら寝てるの?」


「あー、えっと。たしか獣人の服従と降伏のポーズですね。おそらく本能でユキさんの正体に気付いてしまったのかと」


「……。」


今ボクは檻の外にいます。


テルンさんがついでにボクの檻の鍵も外してくれたからです。


檻にかけられていた布をはらい、檻から出てすぐボクの視界にユキ、さん?が入ってきたのです。


「クゥーン…」


どうしましょう。


ボクはどうしたらいいのでしょうか。


プルプル身体が勝手にふるえます。


本当になさけないです…。


「とりあえず立ちなさい。テルンを助けるついでに、あなたも連れて行くわ」


「はいなのです!」


シュバッ!っと立ち上がります。


この方をお待たせするわけには参りません!


けど勢いよく立ち上がったせいで背中の奴隷紋が引き攣れて痛みが走りました。


キャン!と喉から小さな悲鳴が出ます。


急に動いたことと痛みで頭がクラクラします。


「ちょっと、大丈夫?」


「だ、大丈夫なのです!」


「見せてみなさい」


「あっ…」


容赦無く服を捲り上げられました。


まだ塞がっていない奴隷紋が空気に触れてヒリヒリします。


「…あなた、名前は?」


「こ…コウユウ、です」


「そう」


ユキさんはまくっていた服を戻して、扉の方へと歩いていきます。


振り返る時に見えた顔は、なんだかとても悲しそうで、泣きそうに見えたのは気のせいでしょうか?


「コウユウ、ついてきなさい」


「は、はいなのです!」


こうしてボクはユキさんたちについて行くことになりました。

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