第18話〜犬人族のコウユウ④

「ほぉ、こいつが犬人族の生き残りか」


「ええ、売れ残った奴を痛めつけて確認したんですが、こいつが野良の犬人族最後の子供らしいです。あとは犬人族の族長とこいつの両親だけです」


「族長は老いぼれだと聞いたな。残ったつがいの方は貴族に売れるか分からんが、まぁ新しくガキでも産んでくれりゃ十分だろ。引き続き探してこい」


「分かりました」


ボクは首輪を付けられて、冷たい檻の中に入れられていました。


檻の前で人がお父さんたちを捕まえにいく話をしています。


ボクは「やめて!」って叫びたかったけど、首輪を付けられてから自由に話すことも、動くこともできません。


「ふん、ボロい商売だ。弱小種族を攫って貴族に売りつけるだけで大金が手に入る。兵士なんかやってるよりよほど儲かるってもんだ」


檻には布をかけられていて、外の様子は見えません。


でもここがどこか狭い部屋の中だってことと、喋っている人以外には他に誰もいないことは分かります。


それと覚えのある臭いが檻と、この部屋からします。


……濃い血の匂いも。


不意に檻に光が差し込みました。


「どれ、どんな顔してるか確認してやる。……ほぉ、可愛らしい顔をしてるじゃないか。こりゃ高値で売れる」


覗き込んできたのは人族の男でした。


兵士が着る鎧を身につけていて、頭には毛がありません。


顔には傷がいくつもあって怖いです。


「さて、お前はこれから変態貴族に売られて慰みモノになるわけだが、その前にいくつかやっておかなきゃいけないことがある」


そう言って男は長い鉄の棒を持ってきました。


棒の先には平らで赤く光るものがついています。


「『背中をこちらに向けろ』」


⁉︎


身体が勝手に動きます。


ボクは男に背中を向けた姿勢で動けなくなりました。


男は檻越しにボクの服を上にあげて背中を出しました。


「『声をあげるな』」


口が勝手に閉じて、開かなくなります。


何が起こっているのかわからないボクの頭の中はぐるぐるしています。


耳もペタンとしてます。


尻尾も先程から足の間に挟まって震えてます。


いったい何が…


「ほらよ」


「っ‼︎⁉︎」


頭が真っ白になりました。


ジュゥッ!と言う音が背中からして、全身に痛みが走ります。


真っ白な頭の中にガンガン叩きつけるような音が響いてきて、身体は熱いのか冷たいのか分からなくなります。


そんな苦しいのが何時間も続いたように感じました。


でもそれはほんの数秒のことでした。


大声で叫びたいのに口からはうめき声も出せません。


倒れて転がりたいのに背中を向けた姿勢から動くこともできません。


「よし、『姿勢を解いていいが喋るな』」


ようやく身体が自由になりました。


悲鳴はあげられませんが、のたうち回ることはできます。


とにかく痛みから意識を逸らしたくて、檻の床に何度も手や足をぶつけました。


男はそんなボクを置いて部屋から出て行ったようですが、しばらくボクは何も考えられませんでした。

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