第15話〜犬人族のコウユウ
獣人。
それはかつて人と精霊とが交わり生まれた存在だと言われている。
この世界にはかつて魔法もモンスターも存在しなかった。
しかしある時世界に魔素と呼ばれるものが生まれ、満ち、世界に魔力を持った存在が生まれた。
それが人であり、モンスターである。
人は世界の様々な存在へと枝分かれしていき、様々な種族が生まれた。
モンスターも始めの一匹から枝分かれし、様々な種へと変化していった。
そして人でもモンスターでもない存在が生まれた。
それが妖精であり、枝分かれの末に精霊へと至った。
人と精霊が交わったことで生まれた種がある。
それがエルフであり、ドワーフであり、獣人である。
モンスターと精霊が交わったことで魔獣や聖獣が生まれたと言われているが、ここでは割愛する。
重要なのは人と精霊の交わりで生まれたエルフ、ドワーフ、獣人のうち、獣人だけがほとんど魔法を使うことができないことだ。
正確には、魔法のスキル適性が低い。
精霊は環境によって火や水、風や土などの属性を得た。
エルフは風と水の属性を、ドワーフは土と火の属性を得た。
しかし獣人はなんの属性も得ることはなかった。
強いて言えば元となったのが獣の精霊だったため、多種多様な獣人が生まれて様々な特性を得たことか。
しかし見た目や性質の異なる獣人たちはそれぞれが元となった特性ごとに分かれて行動するようになり、いつしか部族として孤立してしまった。
長い歴史の中で何度も戦争が起こった。
人と魔族であったり、人と獣人であったり、他にも同じ獣人同士の争いもあった。
そしていつしか奴隷制度が生まれ、弱者が虐げられるようになった。
人が獣人の奴隷を働かせることや、逆に獣人が人を奴隷にすることもあった。
人が人を奴隷にするように、獣人も獣人を奴隷にすることもあった。
そしていつしかヒエラルキーというものが生まれる。
エルフがその美貌から高値で裏取引されるように、巨人族が労働力として捕獲されるように、獣人の中でも比較的ひ弱で愛玩動物のように扱われる種族が出た。
それが猫人族と犬人族だ。
国や地方によっては獣人であっても巨人族であっても、魔族ですら差別されることなく暮らせる所はある。
しかしコウユウが住んでいた場所では違った。
コウユウたち犬人族が住んでいたのは比較的帝国に近い森の奥深く。
かつては大森林と呼ばれるほどの規模があり、様々な種族の獣人が暮らしていた。
しかし帝国ができてから領地拡大により森は縮小していき、獣人たちは別の住処を求めて去っていった。
帝国が人至上主義であり、他種族は帝国にとって優秀(有用)だと判断されたもの以外はモンスターと同じ扱いを受ける。
獣人などはその最たるものだ。
帝国の侵攻に対抗した種族は滅せられ、生き残りも奴隷にされた。
嗅覚と小柄故のすばしっこさしか取り柄のない犬人族などは、獣人の中でも特に低い扱いしかされてこなかった。
帝国の一部の貴族が、犬人族の愛らしい外見から愛玩動物として飼うことを始め、森からどんどん犬人族は姿を消していった。
他種族の獣人に守られることもなく、かといって他の住処を求めて旅に出るには犬人族はか弱すぎた。
犬人族はどんどんその数を減らし、そして数少なくなり、もはや犬人族も終わりかと思われる時に生まれたのがコウユウだった。
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