第14話〜無言の半巨人
ガゴンは冒険者ギルドの横に併設された解体場に、劣化土竜の死体を置いた。
すぐにギルドお抱えの解体師が作業に取り掛かる。
依頼料と劣化土竜の代金はギルドに全て預けられる。
ギルドカードがあればどこの街のギルドでも引き出すことができる。
ガゴンは食料の補充をして、装備の状態を見ると再び獣魔の大森林に向かおうとした。
するとそんな彼に声をかける男がいた。
「やぁガゴンさん、あれはA-ランクの劣化土竜だね。さすがは【崩城】の二つ名は伊達じゃない。せいぜい街の外壁を破壊できる程度の劣化土竜じゃ貴方には及ばない」
ガゴンに話しかけてきた男の名はカイン。
Aランク冒険者パーティー【煉獄の牙】のリーダーを務める、本人もAランク上位に位置する冒険者だ。
カインはこうして度々ガゴンのことを自分のパーティーに勧誘しに来ていた。
「ガゴンさん、貴方が我々のパーティーに入れば、サダルの街一番のパーティーにだって簡単になれる。貴方だって後方からの支援があったほうがより安全に、もっと効率よくいけるはずだ」
カインは熱心にガゴンを勧誘するが、ガゴンはその太い首を横にしか振らない。
門の近くまで勧誘を続けていたカインも、さすがに外までは付いてこなかった。
ガゴンは獣魔の大森林へと足を踏み入れる。
ガゴンにはやるべきこと、使命があるのだ。
ガゴンは一年前まで奴隷だった。
戦場や闘技場、危険区域などの危険な場所で戦わされる、戦闘奴隷。
ハーフジャイアントのガゴンはその巨大な体躯と強靭な持久力で、何日も何日も不眠不休で働かされていた。
時に戦場で敵魔法使いからの魔法を遮る肉壁として、時に鉱山に住み着いたワイバーンの群れの相手をさせられ。
全身に傷を負いながら、便利で頑丈な彼は使い潰されることなく酷使されていた。
主人は度々変わった。
ハーフジャイアントはその巨体故に維持にはそれなりの費用がかかる。
さらには単純に大き過ぎて使い所が限られていたからだ。
どんな主人でも扱いは同じ、とにかく辛く厳しい労働を延々とさせられる。
ハーフジャイアントの強力な生命力のせいで死ぬこともできず、ガゴンは命令され続けてきた。
もともとハーフジャイアントは巨人族として森の奥に住み、多種族に害はない穏やかな性質だった。
しかしその穏やかさに加えて強靭な肉体を持つことで、強力な労働力として騙されて奴隷にされることがしばしばあった。
ガゴンも森の奥で暮らしていたところ、ありもしない罪で強制的に奴隷にされたくちだ。
ある時ガゴンは魔王軍との戦争に駆り出された。
命じられるがままに敵を薙ぎ払い、敵の拠点を破壊した。
しかしその目立つ外見から集中砲火にあい、さすがのハーフジャイアントとはいえ致命傷を負った。
当時の主人はあっさりガゴンを見捨てると、彼を置いて去って行ってしまった。
辛うじて残っていた意識を振り絞り、森の中へと逃げ延びたガゴンは、せめて最期は静かに眠りたいと願った。
目立たないように森の中を進み、戦場の音が届かない所まで移動し、泉のほとりで力尽きた。
ようやく自由になれる。
そう思った時、気付くと目の前に、主人がいた。
ガゴンを隷属の首輪で縛っていた主人ではない。
今の、心から敬服する主人との出会いだった。
その真っ白な主人はガゴンを縛る契約を破壊し、首輪を外してくれた。
そして満身創痍だったガゴンの手当てをし、追っ手を始末し、隠れ家に匿った。
ハーフジャイアントでも回復するまでに数日はかかる。
その間、食事を与え、包帯を変え、身を守ってくれた白の主。
両者の間には無言しかなかったが、確かに通じ合うものがあった。
数日後、ガゴンは全快した。
そして付いていきたいと願ったガゴンを連れて、主人は旅に出てくれた。
ほんの数週間の旅だったが、ガゴンは心から主人のために尽くしたいと思えた。
旅の間に主人のことを知った。
そして主人の目的には色々なものが必要だと知った。
ガゴンは自分にできることは何かを考え、そしてサダルの街で冒険者になったのだ。
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