第13話〜全ては主人のために

グギャアァアァァァァア‼︎


獣魔の大森林の奥地で大地を震わす雄叫びが響き渡る。


その雄叫びの主は全身を鈍色の鱗に覆われた、全長20メートルはあろうかという巨大な蜥蜴。


一応は亜竜の一種であり、アースドラゴンの劣化種だ。


冒険者ギルドが定めたランクはA-ランクである。


貴金属や鉱石を好んで食す性質があり、その鱗は生半可な剣などでは傷一つつける事はできず、高位の火属性魔法の使い手が複数いなければ討伐は困難だと言われている。


モグラとアルマジロを足して金属でコーティングしたような見た目で、小さな街ならば半日で半壊するレベルのモンスター。


防御力と持久力だけならば獣魔の大森林でも上位である。


そんな劣化土竜と向かい合うのは5メートルを越える巨人。


浅黒い鋼のような皮膚とはち切れんばかりの筋肉の鎧に体の要所を守る丈夫な皮鎧。


深緑を思わせる伸び放題の髪を後ろに一まとめにした、巌のような大男。


その肉体には無数の傷がはしり、両手に持つのはその肉体に見合った戦斧と黒光りする棍棒でよく使い込まれたもの。


存在感やその全身から放たれる威圧は劣化土竜と比べても遜色ない、いや圧倒するものだった。


劣化土竜も力量差を本能で察しているのかジリジリと後退する。


しかし劣化種であっても亜竜のプライド故か逃げる様子はない。


油断なく戦斧と棍棒を構えた大男、ガゴンは、ついに緊張に耐えきれなくなって突っ込んできた劣化土竜の突進をその鈍重そうな見た目とは裏腹に軽やかに躱す。


そしてすれ違いざまに左手の棍棒を横っ腹に叩き込み、怯んだ劣化土竜の太い尾に右手の戦斧を叩き込む。


ギャアァアァァァァア‼︎?


鉄や鋼よりも硬度のある劣化土竜の尾が宙を舞った。


尾を断ち、大地に深々とめり込んだ戦斧は熱せられたように赤く輝いている。


これはガゴンの戦技【断地の一撃】である。


戦技とは複数のスキルと技術とを一体化させることで生まれる強力な技だ。


【断地の一撃】の場合は、【斧術】のスキルと【身体能力強化】のスキル、他にも【鉄壁】などのスキルを同時に使うことで発動する。




一般的にスキルは適性と技術が一定地に達することで【スキル】として発現する。


【スキル】はその性質によって様々な補正がかかり、【剣術】のスキルがあれば剣術の上達や技の習得に大きな補正がかかる。


しかし一言に【剣術】と言っても流派や使う得物によって中身が異なる。


同じ【剣術】でも直剣であったり片刃であったりスキルを発現した場合とは異なる場合は補正がかからない。


あくまで上達や習得に補正がかかるだけなのである。


それでも【剣術】スキルがあるだけで、スキルを持たない者が5年や10年かかるような技術を数倍の速さで身につけることができる。


そして複数の適正あるスキルを所有している場合、複合スキルとして新たにスキルを発現したり、スキルが進化する場合がある。


一番有名なのは【剣聖】のスキルである。


【剣術】スキルを極限まで鍛え上げ、さらにはあらゆる剣術を身に付け、形状の様々な刀剣類を扱えるようになることで、スキルが進化する。


ガゴンが所有する【斧聖】のスキルは【斧術】や【身体能力強化】、【鉄壁】、【不動】などの様々なスキルを発現したことで進化したものだ。


そして【斧聖】となったことで使えるようになった技が、戦技【断地の一撃】である。



尾を失った劣化土竜は悲鳴をあげ、そして憤怒も露わにガゴンに反撃しようとする。


しかし劣化土竜がガゴンに触れる事はなかった。


突如として大地が裂け、不可視の衝撃が劣化土竜を襲ったからである。


【断地の一撃】は尻尾を絶った時点ではまだ発動しかしていなかった。


衝撃は鱗越しに劣化土竜の内臓を傷付け、絶命に至らしめた。


ガゴンは武器をしまい、吹き飛んだ尻尾と見た目は無傷の劣化土竜を担ぐと街の方へと歩き出す。


ガゴンにとってはこの森での活動は作業でしかない。


敬愛する主人のための。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る