第12話〜【崩城】のガゴン
サダルの街の冒険者ギルドはいつも通りの喧騒に満たされていた。
北を瘴気の森、南を獣魔の大森林に挟まれたこの街には有数のベテラン冒険者たちが集まっている。
希少な薬草や素材、高レベルモンスターや魔素溜まりから生まれる特殊個体など、冒険者からすれば垂涎ものの狩場である。
もちろん、それらに比例するようにモンスターたちのレベルは高い。
亜竜とはいえドラゴンすら住み着き、瘴気の森には強力なアンデットたちがうようよいる。
さらに地形や生態による危険度も高く、Aランク冒険者のパーティーですら不意に帰らぬ人となることも珍しくはない。
サダルの街は高さ10メートルを越える分厚い防壁に囲まれ、東と西にある鉄門以外に出入り口はない。
街には高レベル冒険者や護送専門のギルドに委託した商人などが訪れ、危険を覚悟で訪れる人々は絶える事はない。
ハイリスク、ハイリターンの街。
一攫千金と力試しにSランク冒険者すらも複数滞在しているほど。
冒険者であれ、商人であれ、実力のある者しかこの街には訪れる事はできないのだ。
もうすぐ昼になるという時間帯。
すでに依頼受注のピークは過ぎたとはいえ、冒険者ギルドは依頼から帰った者や昼間から呑んだくれる荒くれ者たちによって一向に静まる気配はない。
サダルの街の冒険者ギルドは他の街のギルドと比較してもふた回りは大きいが、訪れる人数も数倍はいるため手狭に感じられるほどだ。
様式美として酒場も併設されているのも原因の一つだろう。
なぜ冒険者ギルドには必ずと言っていいほど酒場が併設されるのか。
それは初代ギルドマスターによって冒険者ギルドが作られた時からの慣習である。
ギイィィ!
冒険者ギルド内の喧騒に負けないほどの音を立てて、正面にあるうちの一番でかい扉が開かれた。
冒険者には様々な身分、種族の者がなることができる。
街にもよるが、このサダルの街には人以外にも獣人やリザードマン、魔族など様々な種族の冒険者がいる。
その中には体格や体型のせいで通常サイズの扉を通れない者も少なくない。
そのためギルドには大中小の三つの扉が設置されている。
今回開いたのは大の扉。
3メートル以上はある巨大な扉は、開けるのにも相当な力がいる。
そのため冒険者の中にはわざわざ力自慢にそちらの扉を開けて入ってくる者もいるのだが、今回は純粋に開けた者が大きかった。
いや、大き過ぎた。
あれだけ喧騒に包まれていたギルドが一瞬静まり返り、視線が扉へと向けられる。
3メートルの扉を身を屈めながら入ってきた男は、5メートルはある天井に頭をぶつけないよう気を付けながら受付の方へと進む。
「おい、あれってハーフジャイアントか?」
「お前知らないのかよ。【崩城】のガゴンだ」
「たった一年でAランク上位に上り詰めた、あの⁉︎」
静まり返ったギルドに囁き声が飛び交う。
ガゴンはそれを気にすることなく、森で取れた素材などを出していく。
それらは全て森の奥でしか手に入らないような高級な素材やアイテムだ。
ガゴンは終始無言で換金を済ませると、再び身を屈めながら扉をくぐり抜けて行った。
「すげぇ迫力だったな」
「けどなんか静かな感じもしたな。一言も喋らなかったからか?」
「馬鹿お前知らないのか?てかよく見りゃ分かるだろうが、ガゴンさんは喉の傷のせいで話せないんだよ」
「そうだったのか」
「昔鉱山奴隷だったとか、傭兵で戦場を荒らして回ってたとか色んな噂はあるがな」
しばらくその場は彼の噂話でもちきりになった。
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