第10話〜別れ

トモとユキがやって来てから数日。


何回目か分からない空振りと魔王信奉者狩が行われ、個人が数日で殺したとすれば少なく無い、しかしシャマルの街からしてみればほんの僅かな命が消えて逝った。


その全ての現場に、ディーンはいた。


そしてその度に彼は隔絶した実力差を実感させられた。


嫉妬や妬みの感情などない。


それらは対等なステージにいるものに対してするものだ。


鳥が空を飛ぶことに嫉妬する人間などそうそういない。


ドラゴンが圧倒的強者としてあることを妬むなどお門違いというものだ。


ディーンは胸の内にある諦めにも似た感情をため息とともに吐き出した。


つまりそういうことだ。


ディーンはいつ頃からか失ってしまった情熱の行方に想いを馳せた。




そして翌る日。


「ディーンさん!」


この仕事を始めてから恒例になっている、馴染みの情報屋たちからのネタ集めをしようと、朝から街を歩き回っていたディーンは後ろから声をかけられた。


「テルンか。どうした、こんな朝から」


基本的に、暗殺者とは言え生活のサイクルが偏っている者はあまりいない。


夜型の暗殺専門でもない限りは基本的に朝起きて夜に眠る。


まぁその性質上夜遅くの活動が多く、ディーンのように朝早くから活動する暗殺者はあまりいないが。


珍しく早朝と言っていいほどの時間帯に顔を合わせた弟子のような相手に、昨晩の興奮から寝付けずそのまま起きてしまったのだろうか、などと考えた。




昨晩はこれまででも最も規模のでかいものだった。


何せ魔王軍に武器などを裏ルートで流していた商会の襲撃で、ディーンですら瞬殺されてしまうような、表の商会には不釣り合いなほどの護衛たちが相手だったのだから。


それすらも結局は無傷で終わらせたトモを、ディーンはもはや半笑いで見ていることしかできなかった。


「ディーンさん!トモさんたちが…!」


しかしテルンの焦ったような顔に予想が外れたことを直感する。


もしや何か不測の事態でも起きたか。


いや…。


すぐになぜテルンが慌てているのか、その理由を察する。


人肌の風が流れるように吹いた。


「トモさんたちが、いないんだ!」


それはトモたちとの唐突な別れを告げるものだった。

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