第7話〜トモとユキ
街をぬるま湯のような風が吹き抜ける。
時刻は日が沈むでまだ幾ばくかの猶予のある時間帯。
街の活気はぬるま湯とは比較にならないほどの熱気を持ち、人混みの集中する場所はサウナ状態だ。
もっとも室内は気候に合わせた造りになっているため、基本的に一年を通して過ごしやすい工夫がなされている。
それに温度調節に魔道具や刻印などが使われている場所も少なくない。
この部屋も同様だ。
もっとも、暗殺者が集って使用する部屋だ、冷房や微風などの効果ではなく、防音が徹底されている。
ここはディーンが普段住んでいる借家の一室だ。
それほど狭い部屋ではないが、さすがに4人も入れば閉塞感はある。
この部屋にいるのはディーンを含めてテルンと、そして白髪の青年と少女だ。
なぜディーンの部屋にこの面子が集まっているのか。
それは昨晩にまで時間は遡る。
「すまない、こいつを許してやってくれ」
ディーンはテルンへの攻撃を止めてくれた青年と、そしてナイフを持った少女に即座に頭を下げた。
「デ、ディーンさん……⁉︎」
テルンが上擦ったような声を上げる。
まだナイフを突きつけられているため、目線だけをディーンに向ける。
どんな状況下でも冷静であれ、迂闊に名前や固有名詞を出すな、そう教えたはずだが。
やはり、まだまだ半人前だ。
「そこまでだ。ここは冒険者ギルドとは違う」
バーカウンターに見える受付に壮年の男が静かにそう宣言した。
同時に、4人を囲むように寄せられていた濃密な殺気と、密かに覗いていた暗器の数々が収められた。
ディーンは全身を押さえつけられるような圧力から解放されて、そっと息を吐き出す。
すでにテルンに突きつけられていたナイフは仕舞われている。
「ディーン、若造の手綱はきちんと握っておきなよ」
「テルンの伸び始めていた鼻も、これでいい感じに折られたかな」
「にしても、あの娘も、少年も、中々の手練れだね」
先程まで一般人ならば睨まれただけで気絶してしまうような殺気を放っていたとは思えない、普通の酒場で若者の喧嘩に野次を飛ばすような口調で周りの暗殺者たちから声がかけられる。
「君がトモとユキだね?報告は受けているよ。うちの若い子が、手間をかけたね」
受付からトモとユキと呼ばれた2人に声がかけられる。
ただの受付ではない。
このシャマルの街の暗殺者ギルド、その副ギルドマスターだ。
白髪混じりのダンディーなマスターのような外見をしているが、暗殺者としての腕は一流以上だ。
「君達はこっちの部屋に。ディーンはテルンを解放してやりなさい」
トモとユキは別室へと移動していった。
ディーンはテルンを見る。
テルンは凍り漬けのまま放置されていた。
しばらくして2人が副ギルドマスターと部屋から出てきた。
そしてなぜかディーンの方へとやって来る。
ディーンは嫌な予感がしたが、さすがに逃げ出すわけにはいかない。
「ディーン、テルンと一緒にこの2人のサポートをしてくれ。これはわしからの依頼だ」
「自分が、ですか。それは分かりましたが、テルンもですか?」
「ああ。テルンにはいい刺激になるだろう。さっきので心が折れてなければ、だがね」
こうしてディーンはテルンと共にトモとユキのサポートをすることになったのだった。
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