第6話〜テルン
薄暗いギルドホールには常に静寂と僅かなざわめきがあった。
しかし今は本当の意味での静寂と沈黙がこの場を支配していた。
テルンは自分よりも若い青年に続き入って来た少女に首を掠めるような軌道で針を弾いた。
実力もないくせに、自分よりも年下の少女がこの場にいることに不快感を感じたからだ。
暗殺者ギルドに入るまでのテルンは、器用貧乏なだけで特に秀でた才能のない少年だった。
しかしとあるきっかけでギルドに入り、ディーンのような面倒見のいい先輩に世話を焼かれるうちに着実に技術をものにしていった。
それは並大抵の努力ではなかったし、今では自分も一人前の実力があると自負していた。
暗殺者ギルドには年若い少年少女も確かにいるが、このシャマルの街ではテルンが最年少だった。
だからほんの少しだけ、からかってやろうとしただけだった。
ディーンから教わった指針で、威嚇用のものを弾いた。
しかし次の瞬間には攻撃したはずの相手に背後を取られていた。
いつの間にか、ほんの瞬き一つの間に入り口付近にいた少女の姿は消えていた。
最年少とはいえ、プロだ。
瞬きなんてしていない。
しかしテルンには目で追えなかった。
驚き声を出しそうになったが、そこは暗殺者としての矜持、プライドから声をあげなかった。
しかしできたことはそれだけだ。
気付けば両手足は氷で覆われて動かせないように固定され、口元には針を持った手とは別の手に持ったナイフを突きつけられていた。
テルンは自分の実力を過信していたこと、そして自分の後ろにいる少女の実力差を感じ取れなかったことを悟った。
恐る恐る目だけ少女に向けてみれば、自分のことを何とも思っていない、氷のような瞳にたどり着いた。
そして全身を薄い氷に侵食され、自分の弾いた針が喉に突き立てられ…
無意識に目を瞑っていた。
「……。」
しかし、命を絶たれる感触はいつまで経ってもやって来なかった。
そろりと目を開く。
恐怖に引き攣った顔が、自分の意思とは別に痙攣するのが分かる。
なぜだ。
なぜこの少女は自分を殺さない。
ふと気付いた。
少女の他にも視界に二つの影がある。
一つは先輩であるディーンのものだ。
ディーンは深々と頭を下げていた。
誰に?
少女の方ではない。
まだ強張る目線をそちらに向けて、テルンはギョッとした。
密着するほど近くに、テルンに刺さるはずだった少女の腕を掴んでいる人がいた。
それは先ほど少女の前に入って来た青年だ。
テルンと同じか、もしかしたら年下の彼が、テルンには目で追うこともできなかった少女に追いつき、ナイフを止めてくれていた。
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