第5話〜暗殺者ディーン②
ホールに扉が開く音が響いた。
この街のギルドメンバーが使うのとは別の、よそから来た関係者が入ってくる方の扉だ。
他のギルドメンバーを含め、あからさまに顔を向けるような奴はいない。
しかし最小限の目の動きで一瞬で相手を観察し、即座に実力を測る。
ディーンもちらりと入って来た男を一瞥した。
そして顔には出なかったが、鳥肌がたった。
平凡すぎる、当たり前に感じる、脅威を抱けない、記憶からすり抜けるように消えてしまう。
後に残ったのは白という単語のみ。
おそらくディーンはあの男にすれ違いざまに刺されて死んでも気づけないだろう。
それが分かるほどに、何も分からない。
テルンの方を見ても何の変化もない。
おそらくテルンではまだこの実力差を感じ取ることはできないだろう。
むしろちょっかいをかけようとしているような素振りすら見える。
ディーンは小さく咳をしてそんな行動を止めようとしたが、男に引き続き入って来た少女に気付き止める。
少女もまた見た目通りの実力ではないようだ。
しかしここに出入りするにはやや実力がたりないか。
いや。
ディーンの感覚にやや違和感を感じる。
これは獣人を始末した時に感じたものと同じだ。
獣人はその見た目こそ人とあまり変わらないが、俊敏性も腕力も持久力も五感も、身体的な能力では人を大きく上回る。
人と同じようにかかっては返り討ちにあう。
おそらくあの少女もその類だろう。
現にベテランたちは動こうとしない。
この場に来れるのは関係者だけだし、一般人は表の入り口で止められる。
だから問題はない。
ディーンは小さく息を吐いて目線をテルンの方へ戻し、ギョッとした。
テルンの袖口から針が覗き、今まさに放たれたからだ。
ディーンには少女が見た目通りにしか見えなかったようだ。
針も威嚇用のもので殺傷力のないものだ。
軽い挑発のつもりだったのだろう。
実力差をまったく感じ取れていないことを宣言しているようなものだ。
暗殺者としては失格と言っていい。
いや、ある意味ギルド内では通過儀礼だ。
だがそれは同じ街の同業者が相手の場合のみ。
この場合は軽率以外の何でもない。
それは針が当たる直前に少女ごと姿を消し、次の瞬間にはテルンの後ろから針を突きつける少女が現れたことで証明される。
テルンには直前まで、自分の命が簡単に狩られそうになったことが分からなかっただろう。
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