第4話〜暗殺者ディーン①
ディーンは暗殺者ギルドの薄暗い酒場で、最近面倒を見ているテルンと依頼の情報収集をしていた。
依頼内容はとある組織の幹部による汚職の証拠集めと暗殺。
どうやら組織の金で私腹を肥やしているらしい。
証拠を突きつけ衛兵に引き渡した後に、尋問で組織にとって不利益な情報を喋る前に事故を装って殺してほしいとのこと。
暗殺者ギルドにくる依頼はランクにもよるが、大概がこんなものばかりだ。
ただ殺すだけではなく、時間や場所、条件まで付けられているため、難易度はともかくとして面倒が多い。
対象についての情報を探せば出るわ出るわ。
暗殺者ギルドの情報網は小悪党にも満たない人間の情報すらも簡単に手に入る。
まぁディーン以外の、そういった情報を集めるのを専門としたメンバーがいるのだから当然か。
ディーンは三年前に冒険者から暗殺者に転職した。
12の時に冒険者となり、8年間でCランク冒険者となり、23の時にはBランク冒険者試験に合格した。
実力はあったし、組んでいた仲間たちとの連携のおかげで格上を相手にしても勝ち続けることができていた。
パーティーの斥候として、身軽さと素早さには自信があり、毒などを塗ったナイフでモンスターに強襲を仕掛け、仲間が倒す。
Bランクのモンスターは強力な個体が多かったが、仲間たちのバランスの取れた実力のおかげで安定した実力を発揮できていた。
しかしそれも拠点にしていた街を出るまでだった。
初めて遭遇するBランクのモンスターに呆気なく仲間がやられ、毒などを用いた強襲と細々とした技能しかなかったディーンは息を潜めてモンスターから隠れていることしかできなかった。
斥候としての技能などは確かにBランクにふさわしい実力があった。
しかしディーンにはそれしかなかった。
単独ではCランクのモンスターすら倒せず、知り合いのいない中で他のパーティーにも馴染めなかった。
簡単な依頼を何度も失敗し、ついにはBランク冒険者の資格まで取り消しとなったディーンを迎えてくれたのは、暗殺者ギルドだった。
暗殺者ギルドではディーンの技能を十全に活かすことができた。
モンスターの頑丈な皮膚や耐性には意味のなかった、毒などを用いた強襲術も、対人戦では効果があった。
ディーンは暗殺者ギルドで様々な技能を学び、目立つナイフではなく色々な効果の毒を塗った艶消し針を使うようになった。
まさに全盛期の肉体に技術がついた状態だ。
最近では入ったばかりの新人に簡単な教育をするまでになった。
目の前で書類とにらめっこしているテルンもそうだ。
まだ若く技術が身に付いていないが、実力がある。
最近はディーンの真似をしてか投げ針を練習し始めた。
何度か依頼はこなしていて、Cランクの護衛5名を気絶させた上で対象を暗殺できる程度の実力はある。
しかしこれが冒険者ならいざ知らず、暗殺者だとヒヨッコでしかない。
冒険者の引退時期は大概が30後半から40の半ばごろ。
ほとんどの場合モンスターに殺されるため、引退する前に死ぬ。
暗殺者ギルドでは危険な仕事が多いが、しかし技術を磨き対人戦でも経験を積んだ強者は60を超えてなお現役であることも珍しくない。
ここのギルド長も今年で70だとも80だとも言われている。
この世界の平均寿命が50に届かないことを考えると、相当なご高齢である。
ディーンは自身の実力が低くはないことは理解していたが、同時に歴戦の猛者と比べればまだまだであることは理解していた。
ディーンの目の前のテルンは最近調子に乗ってきたのか、後先考えない行動が目立つ。
このままだと依頼中に簡単なミスをして死んでしまうことにもなりかねない。
若者故の無鉄砲さは暗殺者ギルドでは真っ先に捨てなければならないものだ。
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