第3話〜暗殺者ギルド【鈍銀の追跡者】

シャマルの街にある、寂れた酒場の地下。


隠し扉を潜り抜け、垂直に近い勾配の階段を下り、複雑な通路を進むこと数分。


そこには地上の酒場とは比べ物にならない広さの空間があった。


そこは冒険者ギルドのような表立った組織よりは裏組織や闇ギルドに近い、暗殺者ギルドの拠点の一つ。


シャマルの街で暗躍する『合法の』ギルドである。




シャマルの街、暗殺者ギルド【鈍銀の追跡者】。


ひとえにギルドと言っても冒険者ギルド、商業ギルド、工業ギルドなど、様々な組織があるように。


冒険者ギルドシャマル支店のように、街や国ごとにギルド支店があり、その支店ごとに特徴や実力に差がある。


ここ、シャマルの街の暗殺者ギルドはそのギルド名の通り、獲物の追跡や捜査に優れたギルド員がおり、街の大きさに比例して優秀な暗殺者が所属していた。


平時であっても暗殺者同士の情報交換や最新情報の更新、ここでしか手に入らない薬や暗器など、ギルドには一定数以上の人がいる。


しかし万が一にもあり得ないことだが、一般人がここにまぎれこんだとしても、ただのバーにしか見えないだろう。


暗殺者の仕事はただ殺せばいいだけでなく、街に溶け込んでの情報収集や潜入捜査などの依頼もある。


情報もなく一から対象を暗殺することはできても、その後の後始末や証拠隠滅などは一人の力では難しい。


バックアップとしても、対象側からの報復から身を守る意味でもギルドの存在は大きいのだ。


暗殺者ギルドに所属するにも厳重な審査と過程を踏む必要があるが、やはり暗殺者ギルドの情報網は一般のギルドなどとは比べ物にならないものがある。


依頼をしたい時や情報が知りたい時も、ギルドに所属していれば面倒な手順を踏む必要もない。


暗殺者ギルドに登録しているからといって、実のところ全員が暗殺者として対象を殺す仕事をしているわけではない。


冒険者が全員モンスターハンターなのではなく、薬草採集や護衛をしているように、暗殺者も情報収集や潜入捜査だけを得意とする者は多くいるのだ。


もっとも。


最低限の実力と技術がなければ暗殺者にはなれない。


そして信頼できるだけの実績と人間性も重視される。


暗殺者ギルドに所属して、しかし気づけば行方不明、なんてことはざらにある。


冒険者以上の実力主義であり、秘密主義。


実力や技術、人間性のそれら一つでも欠けていれば簡単に消されてしまう。


暗殺者というその立場上、スパイや裏切りは他人事では済まされない。




ギィ…


表の酒場からの入り口が開く音が、薄暗い酒場に見えるギルドホールに響いた。


ぱっと見、酒や食事をしているだけにみえる暗殺者たちの瞳がほんの僅かに侵入者を捉えた。


そして一目でその実力を見抜き、袖口や靴底から僅かに覗いていた暗器を隠す。


新顔だが、修羅場はいくつも潜り抜けている。


それがベテランたちには一目でわかった。


白髪であること以外に特徴らしい特徴もなく、むしろその白髪だけが印象に残って他はうまく像を結ばない。


気配が自然過ぎて雑踏に紛れたら瞬き一つする間に見失うだろう。


しかしその青年の次に入ってきた少女を見た、比較的新顔たちは眉をひそめる。


見た目通りの年齢だとしたらそこそこ実力はありそうだが、暗殺者になるには実力不足。


前を歩く青年の連れだとしても、ギルドホール内部に入れるのはややルール違反だ。


一人がごくごく僅かな手首の動きで針を飛ばす。


艶消しされた針は暗がりのホームを抜けて少女の首に…

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