第2話〜寂れた酒場に
シャマルの街ではその気候も相まり、遅くまで人の往来が絶えることはない。
とくに酒場や娼館などはむしろ目覚めはこれからだと言える。
もっともどこの街でもそうだが、眠らぬ街であっても、大通りを外れれば灯りは疎らになり、人気も安全の保障も格段に無くなる。
大きな街であればあるほどに、闇で蠢く者は増え、闇はより一層深く濃いものとなる。
罪人を裁く秩序があるほどに、無秩序が蔓延るものだ。
この世に聖人はあれど、それと比べられぬほどに悪人は存在する。
裏の方が秩序がないだけ、そこにどっぷり漬かった者たちにとっては自由がある。
表の聖人は裏では同様の笑みで尊厳を踏み躙る。
かの帝国を見れば誰しもが理解することだろう。
もっとも、秩序はなくともルールは存在するのだが。
「青く透き通った辛い酒を」
「どうぞ、こちらに」
大通りからほんの数本ほど通りを外れた、どこにでもある酒場。
そこは客の姿もまばらに、お世辞にも繁盛している様子はない。
現に今もマスターを除けば、客は店の隅で静かに酒を飲む壮年の男しかいない。
そこに二人組の客が訪れた。
一人は成人こそしているようだが、まだ幼さの伺える青年。
そしてもう一人はその青年の傍に隠れるように寄り添っている、明らかに成人前の少女。
この街では成人前でも酒は飲めるが、それでも10歳を越えない子供に酒を提供することは、禁止こそされていないが褒められた行為ではない。
こんな夜遅くに、寂れた酒場だ。
しかも注文したのは青年ではなく、少女の方。
鈴の音を転がしたような声音が、一層の事場違いですらある。
あまりにも不自然だった。
唯一の客である壮年の男もその二人を盗み見ていたが、しかし少女の注文を聞いて自然と目線を外す。
マスターも二人を訝しむ様子もなく店の奥、従業員専用の扉の方へと案内する。
そのまま二人組は扉の奥に消え、店にはマスターと一人の客だけが残された。
「随分と幼い同業者だ」
「ええ。しかし、手練れですな」
「末恐ろしい限りだ」
そんな会話を最後に、店内は再び静寂が支配した。
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