無言の殺し屋と無口な少女 第二部

砂上楼閣

第1話〜シャマルの街

夜の帳が落ちてからしばらく経つ。


あいにくと夜空に星はなく、分厚い雲が地上に蓋をしていた。


ここ、シャマルの街は一年を通して温暖な気候だが、それでも多少の気温の変化はある。


他の地域のように四季がはっきりとしているわけではないが、今は風の季節と水の季節のちょうど中間のあたり。


夜になれば薄着だとやや肌寒く感じる程度だ。


もっとも一番気温が下がる水の季節の半ば頃でも、日中は半袖でも問題ないのだが。




マカは一人、酒場の外で風に当たっていた。


酒精に火照った身体には風が心地よい。


今年で15になるマカはこのシャマルの街に生まれ、成人してすぐに冒険者になった。


珍しいことではない。


成人してすぐ冒険者になろうとする輩は少なくはない。


依頼にもよるが、やはり荒事が多い冒険者の仕事に、歳をとってからなろうとする者など皆無と言っていいからだ。


それに命の危険がある分、ハイリスクハイリターンが望める冒険者に憧れる若者は多い。


家を継げない貴族の三男以下から口減らしの子供まで、冒険者になる奴はいくらでもいる。


薬草採集や掃除の手伝いなど子供にもできるようなものもあり、依頼内容は様々なので登録自体は年齢制限はない。


だが討伐依頼などの稼げるクエストは成人してからでないと受けることはできない。




マカは目立った実績はないが、安定した仕事ぶりに他の冒険者から下に見られることもそうそう無い。


駆け出しはとっくに卒業して、今はようやく一人前まであと少し、といったレベル。


今日も街の外の森でモンスターを狩り、証明部位と素材を獲ってくる依頼を難なくこなして、先程まで馴染みのパーティーメンバーと飲んでいたところだ。


それほど酒に強くないマカはなんやかんや理由をつけて今に至るわけだが。


ここは冒険者ギルドに隣接する飲み屋兼食事処で、森に面した門からはほど近い位置にある。


大概の冒険者は依頼帰りにギルドに報告に行き、すぐ隣のここで依頼達成の報酬で飲み食いする。


マカも多分に漏れずその一人だ。




そこそこ大きなこの街では基本的にギルド関係の施設は遅くまでやっている。


夜間にしか出現しないモンスターや採集できない植物などがあるからだ。


それに万が一モンスターの襲撃などがあった場合などにクエストを発令する必要があるため、夜間でも最低限の人員はギルドに詰めている。


冒険者は眠らない、なんて諺があるほどだ。


もっともこの場合、冒険者ギルド職員は眠らない、だろうが。




ようやく酒精が抜け、やや肌寒く感じ始めたマカはそのまま帰宅しようと腰を上げた。


仲間たちはきっと一晩中飲み明かすのだろう。


とくに今回の依頼は追加報酬などで懐がだいぶ暖まった。


酒がそんなに飲めない代わりに、明日は防具などの装備を見て回ろうと決意したマカは伸びをして、何の気なしに門の方を見た。


すると門の方から歩いてくる二人組を見つけた。


珍しい。


しかし夜間でも旅人がやってくることは、ないことはない。


もっと小さな街だと夜の間は門を開くことなく、旅人だろうが商人だろうが門の前で一夜を明かすことになる。


しかし先程もあったが夜間にしか達成できない依頼に出る冒険者もいる。


なので身分証か冒険者証明書、いわゆるギルドカードがあれば通れないこともない。


もっとも依頼証がなければ通常の3倍近い金を取られるが。




その二人組はよく見れば特徴的で、しかし目線を外してしまえばすぐにでも忘れてしまいそうな、そんな不思議な印象を受けた。


一人はマカと同じくらいの青年で、もう一人は成人前と思しき少女。


こんな遅くに、旅人のような格好をしていて、さらに少女を連れた青年。


着ているものは普通で、特徴らしい特徴も何もない。


しかし二人に共通しているのはここら辺では見かけない白い髪。


マカは目の前を通り過ぎ、そして去っていった二人組からは見えなくなるまで目線を外すことができなかった。


そして見失った瞬間に¨白い¨印象以外の全てが抜け落ち、そして次の日目覚める頃にはその二人組の存在は完全に忘れ去ってしまった。

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