第29話
憧れとは、諦めを含んだ感情だ。
現時点の自分には持ち得ていないという自覚。
ラック・ザ・リバースマンは憧れに向かうたびに、小さな落胆を感じてしまう。
評価が上がれば任務の難易度もあがる。
招集をかけられた現場は、巨大なエネルギープラントだった。
各地に設置されたエネルギープラントが次々と襲われていることはニュースでも毎日やっている。
あえなく破壊されたものもあれば、超本営の活躍により守りきったもの、取り返したものもある。
一般人の生活を脅かす、とニュースではよく伝えているが、実際のテロリストは大量のエネルギーを消費する研究施設、工場、病院などが真っ先に狙うものだ。
ふてぶてしくも犯行声明を送ってきた犯人を撃退すべく、ガーディアンズ・オブ・トゥモロウも呼ばれた。
結果がどうであれ、必ずニュースになる規模のこの任務に対して、チームのメンバーはどこかいつもとは違っていた。
ハンド・メルト・マイトは決めポーズを繰り返し、動きに鋭さが増している。
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールに至っては、一言も喋らず、深刻な表情を浮かべて重厚な歴戦の勇士のようだった。
この戦いで活躍することこそ、史上最強のスーパーヒーローへのビクトリーロードであると確信してラック・ザ・リバースマンは熱く拳を握る。
現場には、ガーディアンズ・オブ・トゥモロウの他に二チーム招集されていた。
二チームとも名の知れたチームで、急に評価が持ち上がったガーディアンズ・オブ・トゥモロウはやや浮いていた。
「お手並み拝見とまいりますね」
「一緒に頑張りましょう」
好意的な姿勢を示してくれたのはハニー・バレッツのメンバーたち。
最近、再編成されて作られたチームではあるが、元々実力のあるメンバーに新人が加わり、高い評価を上げている。
「なんであなた達と一緒なのかしら」
一方で、アタック・ザ・ファイティング・ゴングのメンバーはやや敵意を示した。
問題児だらけの戦闘集団と評する人もいるチームだ。
開口一番皮肉を言ったのは、戦いさえあればそれだけで幸福だと公言し、しかもその圧倒的な強さに定評のあるゴールド・チャーヂャー。
リーダーのピース・オブ・ニンジャは素行の悪い問題児をまとめ上げる慈愛に溢れた人物で、仏のニンジャと呼ばれているが、噂によると切れた時の彼は最強の狂犬らしく、そのおかげで統率が取れているらしい。
勝つためならどんな手段も厭わないなどと陰口を叩かれ、度々問題になっていたりするが、超本営の中堅チームとして安定している。
共闘作戦が初めてのガーディアンズ・オブ・トゥモロウは、立ち位置に困っていた。
「カウントダウンじゃなかたっけ? 名前変えたの?」
「そう。ガーディアンズ・オブ・トゥモロウになったんだよ」
「いいかもね。名前変えて運気がむくこともあるから」
ハニー・バレッツに所属する敵を魅了するチャームスキルを持つウィンク・トゥインク・ブロウがそう言ってきた。
スタイル・カウント・ファイブだと訂正しようかと思ったが、過去の名前を細かく言ってもしょうがない。
新しい名前を覚えてもらえばいいだけだと思い、ラック・ザ・リバースマンは反論はしなかった。
見るとハニー・バレッツは統一感のある同色を使ったスーツでまとまっている。
アタック・ザ・ファイティング・ゴングはそれぞれの能力に合わせたスーツなので一見してバラバラだが、胸と背中に大きなロゴが付いていて一つのチームだと解る。
ガーディアンズ・オブ・トゥモロウはスーツの色や形状も違い、名称が代わったためにロゴなどもない。
胸にどこのチームもつけている超本営のワッペンが縫い付けてあるだけだ。
なんとなくそれが、ただの寄せ集めのような感じがして負けた気がしていた。
お互いのチームが雑談をしているようでいて、誰が指揮をとるのか、微妙な牽制をしあっている。
そして二チームの意識としては格下のガーディアンズ・オブ・トゥモロウがメインを張ることはまずないという見解で一致しているようだ。
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは気後れしているのか、普段なら気丈に言い返してるところを黙っている。
マウントを取り合うようなチーム同士のやり取りがヒートアップしてきた時、空から赤い影が舞い降りた。
「トーォ! 勇気の炎がある限り、希望を炎は絶やさない。熱き血潮に炎を燃やす。ウーバー・ワン、参上!」
その輝かしいばかりの圧倒的オーラにラック・ザ・リバースマンは呼吸をするのも忘れて釘付けになってしまった。
周りの者達も驚いたのか、固まっている。
「やぁ! なにかお困りかね?」
「あなたがけたたましく登場するから変な空気になったのですよ」
隣に女性スーパーヒーローが現れてそう言った。
「まさかウーバー・ワン。本物……?」
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