第14話

 白く四角く清潔感のある建物を見て、豆腐みたいだなとザ・パーフェクトは思った。


 出動がかかり新メンバーのサンシャイン・ダイナを連れてザ・パーフェクトたちは現場に来ていた。

 木大角豆きささげ先進工学研究所という、ロボット研究所だ。


「わかった。一人で行かないよ。大丈夫だから!」


 ラック・ザ・リバースマンがまたしてもピンキー・ポップル・マジシャン・ガールに捻り上げられて呻く。


 そんなに行きたいのなら行ってくれても全然かまわないのに。

 ザ・パーフェクトはそう思いながらゾングルちゃんをじっと見る。


「なにー? もうやめなよぉ! 弱い者いじめ良くないよー」


 サンシャイン・ダイナがそう言うとピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが手を緩めた。


「フレッシュ! ボクは弱い者じゃないさ」


 ラック・ザ・リバースマンがピンキー・ポップル・マジシャン・ガールより先に反論する。


「でもやられてたし」

「やられてないさ。むしろさっきより元気なくらいさ」

「……Mなの?」


 サンシャイン・ダイナが臭い匂いを嗅いだような顔で尋ねる。


 ザ・パーフェクトは口には出さずに頷いて肯定を示した。


「Mじゃないさ。弱い者でもない。スーパーヒーローだからね、ボクは」

「あの、敵は5体のロボットです。各ロボット銃火器で武装しています」


 ハート・ビート・バニーがときめくような困り顔で言う。


 みんな和気あいあいのやりとりをやめてモニターに注目する。


「この映像、人を撃つのに躊躇がないわね」


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは腕を組んで言った。


 彼女の手元から巨大な虫の羽ばたきのような音がする。

 考え事をする時に指でリズムをとる癖があるのだけど、彼女の場合はそれが超高速のために目に見えず音だけが響くのだ。


「フッ……面白いことになってきやがったぜ」

「全然面白くないけど。何言ってんの?」


 ハンド・メルト・マイトのいつもの強がりに、サンシャイン・ダイナはド直球の返しをする。

 しかしハンド・メルト・マイトはしてやったりという顔で口の端を持ち上げた。


 研究所内のロボットがハッキングされて暴走しているという事件だ。


 幸い人の避難は済んでいるので、後は制圧すればいいという力押しでなんとかなる案件ではある。

 頭を使って戦うのが苦手なこのチームにはうってつけだ。


「あの……。ロボットって人間に危害を加えられないようにプログラムされてるんですよ……ね?」


 ハート・ビート・バニーが遠慮がちに口を開いた。


「はい、お答えいたしましょう」


 そう答えたのは髪をグラデーションに染めて白衣にやたらとたくさんの缶バッジをつけた見るからにうるさそうな研究者だった。


 木大角豆博士という、ロボット工学の分野では有名らしいこの研究所の責任者だ。

 実績はともかく、この見た目ならそりゃ有名にはなるだろうな、とザ・パーフェクトは思った。


「なぜこのような事態になったかといいますと、そもそもこのロボットは介護用に作られたものでして、決して兵器などではありません」

「それはすでに聞きました」

「改めて言ったまでです。現在なんとかの顔という凶悪なハッカーによりロボットたちが乗っ取られてしまっています。まったく忸怩じくじたる思いです」

「ロボットは人間を傷つけられない、と俺は聞いたことがあるぜ」


 ハンド・メルト・マイトが格好をつけて言う。


 聞いた事があるも何も、今さっきハート・ビート・バニーが言ったばかりだが、代弁してもらったことで自分の荷が降りたのか、彼女はホッとした表情で同意するようにコクコクと首を振っている。


「アシモフのロボット三原則ですね。あれはフィクションです。バカなのですか?」


 木大角豆博士の身も蓋もない返事に思わずザ・パーフェクトは吹き出しそうになった。


「マイちゃんバカなの?」


 サンシャイン・ダイナが悪びれずにそう言う。


「マイちゃんはやめろ。俺はバカではないぜ。やる時はやる男だ」


 ハンド・メルト・マイトは格好をつけて答える。

 ややいつもの勝手が効かずやりづらそうだが、それでも自分のスタイルを崩さないのはなかなかのものだ。


 それにしてもサンシャイン・ダイナは面白い。

 コミュニケーションの距離感が極めて近い。

 相手がギリギリ嫌がるまでぐんぐんと詰めていく。


 博士は、ハンド・メルト・マイトの言葉などまったく気にもせずに話を続けた。


 こういった研究者は自分の好む話題になると暴走した機関車のようになる。

 それだけのエネルギーがあるからこそ、その地位を築けたのかもしれないが、人生のテーマが省エネであるザ・パーフェクトにとっては呆れるだけだ。


「もちろん、ロボット三原則を組み込んだプログラムも実装可能です。少々根の張るオプションとなりますので、現在暴走している廉価版の汎用介護用ロボットにはついていません」

「複雑な意思はないということですか?」

「そうなのです。シンプルなプログラムを機能させるからこそ、安く壊れづらいロボットとなるの……」

「壊れてるじゃんね?」


 博士が言い終わらないうちにサンシャイン・ダイナが被せるように言った。


「壊れてはおりません。ハッキングされているだけです」


 頑なに博士はそう言い張る。


「電池切れるまで待てないんですか?」


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールがモニターを見つめながら尋ねる。


「自動で充電します。この建物自体が発電をしていて自律で制御されています。今時電池切れを起こすようなロボットなんてありえません。ご存じない? このレベルを?」


 歯に衣を着せぬ博士の物言いに、ザ・パーフェクトは面白くなっていた。


 こういった変人を見るのは楽しい。

 言わなくても良いことを言ってしまう、やらなくてもいいことをやらかしてしまう、そんな人たちが巻き起こすドタバタはザ・パーフェクトの大好物だ。


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが自分の思い通りにいかなくてヒステリーを起こすのも微笑ましい。

 ハンド・メルト・マイトが格好つけようとしすぎて身の丈に合わない振る舞いで外すのもいい。

 このチームはザ・パーフェクトにとってかなり悪くない場所と感じている。

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