第13話
ハート・ビート・バニーは会って数分しか経ってないにも関わらず、サンシャイン・ダイナに心を許し始めていた。
「なんかうまく言えないんだけどー、あーしからドーンてのがでるっぽいんだよね」
「なるほど、その能力なら聞いたことがあるぜ。ほら、ミングメイの……」
サンシャイン・ダイナの言葉にハンド・メルト・マイトが相槌を打つ。
言い淀んでいたので、ハート・ビート・バニーは僭越と思いながらも助け舟を出した。
「ドリーミング・メイの燃焼破裂能力ですね」
彼は満足したようにこっちを人差し指で射抜くように指した。
少し役に立てた気がして嬉しかったが、こんなことは別にスーパーヒーローの仕事でも何でもない。
「違う違う! ああいうすごいのとはぜんぜん違うって。あーしのはね、もっと意味わかんないから。まじで笑うよ?」
サンシャイン・ダイナはそれを聞いて顔の前で大きく手を振る。
慌てて否定するサンシャイン・ダイナにハート・ビート・バニーは余計に親近感が沸いた。
能力者の全員が自分の能力を好きで自信を持っているわけではない。
それ自体をコンプレックスとして抱えながら過ごしている者もいる。
「フッ……まったく、的外れだぜ。こっちははじめからそれほど期待していないぜ。なんならここでやってみろよ」
「無理無理。もー、全然そういうんじゃないんだから」
「なるほど、敵を欺くにはまず味方からってわけか。面白い、嫌いじゃないぜ、その考え方」
「でも一緒にチームで戦うんだから秘密ってわけには……」
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールがそう口にする。
自分が言われたわけでもないのにハート・ビート・バニーは勝手に胸が締め付けられた。
確かにみんなの方が正しいのだ。
能力者としてスーパーヒーローになったからには、それを拒否するほうがおかしい。
見せたくないなんて単なるわがままにすぎない。
そうは言っても、自分の気持ちと折り合いを付けるのは簡単じゃない。
自分だけはその気持ちがわかる、という思いでサンシャイン・ダイナを見る。
「っていうか、少しも秘密じゃないよ。ほら、映像あるから見る? 見よっか、一緒に」
サンシャイン・ダイナはピンキー・ポップル・マジシャン・ガールに小型の記憶媒体を渡す。
「これねー、動画入ってるから。ホントは超本営のデータにもあるんだけど、なんかやりかたわかんないんだよねー。あれ意味わからなくない? なんか勝手に変なになっちゃうんだよ」
待機室の大きなモニターに映像が映し出された。
大きなゼッケンをつけた若者がランニングしている。
「あー、違う。これ間違えた、駅伝のやつだ。あーし、またやったっぽいかも」
サンシャイン・ダイナが嘆くようにそう言い、そのあと吹き出してまた爆笑しはじめた。
「なんで駅伝」
「この後、すごいミラクルな逆転起きるから、見る? 涙の7区大逆転。マジ感動するから」
「駅伝は今はいいや」
「えー、絶対泣くって。あーしもう50回位見て泣いてるもん。テッパンだから」
いつも優しいラック・ザ・リバースマンもさすがに苦笑いをしている。
駅伝の特に変化のない映像がずっと流れて、全員がそれをどうしたらいいのか対処に困っていた。
その間にザ・パーフェクトがデータを呼び出してサンシャイン・ダイナのIDが画面に大きく映し出される。
さすがザ・パーフェクトとハート・ビート・バニーは感心してしまった。
彼女は常に的確な動きをする。
戦闘中に何度も助けられたこともある。
その判断があまりに的確すぎるために、必要のない時はまったくやる気の無いように見える。
自分とは正反対なそんな生き方に、ハート・ビート・バニーは年下にもかかわらず羨望を抱いている。
動画を再生すると、そこには荒れた白黒画像だった。
ミニチュアのように遠景で廃墟の町並みが映っている。
「今度は何の映像?」
「ちゃんと見てよ。これ、あーし。このちっこいの。見える? このアリンコみたいの」
「おいおい、もうちょっとマシな映像ないのか?」
ハンド・メルト・マイトは鼻で笑う。
しかしその笑いは画面の映像の変化によって止められた。
画面が明滅し、しばらく後にノイズが走り映像が途絶える。
同じ映像が今度はスローモーションで繰り返される。
大画面の中央に米粒のように小さいサンシャイン・ダイナ。
そこから球状に建物が歪み、押しのけられるようにその空間が広がった。
カメラの場所に衝撃波が届いたのだろう、映像はそこで切れる。
そしてカットが切り替わると、巨大なクレーターの真ん中に倒れたサンシャイン・ダイナに多くの人が駆け寄っている映像となった。
「すご……」
ザ・パーフェクトがそうつぶやく。
「なんだよこれ、すごいじゃないか。すごすぎるよ」
ラック・ザ・リバースマンも目を見開いて言った。
「確かにすごいですね。でもこれ、すごすぎて……」
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは顎に指を当てて言いよどむ。
「まじウケるでしょ? 全然使えないの。敵も味方も全滅しちゃうから。うまく調節できないしさー。こっちも身体ズタボロになっちゃうから。こんな能力ありえる?」
能力が使えないということに対してハート・ビート・バニーは親近感が沸いていた。
そう思っていた分だけ裏切られたように心が傷んだ。
サンシャイン・ダイナの能力自体は圧倒的すぎる。
恥ずかしいから能力を出せないなんていうハート・ビート・バニーの悩みとは次元が違っていた。
やるせなさで目に涙が浮かんできた。
自分とは何もかも違う。
明るく素直で積極的な性格。
しかも能力まですごい。
一瞬でも同じだと思ってしまった自分が恥ずかしかった。
他のメンバーも唖然としている。
「やっぱ駅伝見よっか? まじ七区の大逆転劇は号泣だから」
サンシャイン・ダイナはクルクルと大きく動く瞳で見回して言った。
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