第5話
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールの特殊能力はスーパーハイスピードだ。
超高速で動くことができる。
常人の目にも留まらないパンチやキックを放つこともできる。
ただし、それは身体の運動のみ。
思考や認識はそのスピードについていけない。
フィクションによくある高速で動く能力とはまったく違う。
高速で走ろうと思った瞬間にすでに超高速移動をしているわけで、他人が高速で動く人を認識できないように、自分でも気づかぬうちに移動が終わっている。
途中でうまい具合に止まることもできない。
だいたいは何かにぶつかって止まった後に自分の身体が移動していることに気づく。
動いている瞬間は意識できないので、角を曲がることもできなければ敵の後ろに回り込んで倒すなんてこともできない。
高速で移動するというよりは、移動にかかる時間コストを限りなくゼロにする感じだ。
見通しのいい直線でだけ使える瞬間移動とも言える。
他の能力者からは羨ましがられることもあるけど、本人としては複雑な気持ちだ。
身体が高速で行動するということは、それだけ長い時間を過ごしている。
つまり老ける……ような気がする。
このスーパーヒーロー組織を作るきっかけとなった伝説の特殊能力者がいる。
彼の能力は時を止めて行動するものだ。
そのおかげで実年齢20歳の彼の見た目はどう見ても40代後半。
メディカルの話ではピンキー・ポップル・マジシャン・ガールの能力はそういうものとは別で、例え時間のねじれがあったとしても誤差のレベルらしい。
それでも女である以上そこは気になってしまう。
更には、高速で移動する時の空気摩擦。
そんなものが肌にいいわけがない。
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは21歳。
チームの中では最年長だ。
チームではリーダーを任されているけど、別に戦略やマネージメントが得意なタイプでもない。
なんとなく面倒見のいい長女のような理由で決まったようなもの。
肩こりになり、リーダーとしての責任も感じて、なんだか年よりもかなり老けた気がする。
特に目の前にいる男を見るとその思いは強くなる。
ラック・ザ・リバースマン。
年齢は17歳。
4歳も年下だと幼く感じてしまうが、それ以上の問題がある。
彼の能力は「フレッシュ」と発声し能力を発動させることにより、身体そのものを完全な状態に戻すことができる。
怪我をしようが、年を取ろうが、最高の身体状態にいつでも戻れるのだ。
不老不死の能力と言ってもいいだろう。
どんなに傷を負っても汚れても一言で最高の肌の状態に戻る。
ズルとしか言いようがない。
「一体誰のせいでこんなに肩がこってると思ってるのよ」
「そうだよね。テロリストも増えちゃって、この間すごい爆発あったらしいよ」
にこやかにラック・ザ・リバースマンは相槌を打つ。
「上は勝手なこと言ってくるし、だいたいなんでうちのメンバーは誰もあたしの言うこと聞かないのよ!」
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは、テーブルを両手で叩いて声を上げた。
思った以上に大きな音が鳴り、ロールケーキの箱が倒れた。
「え、なに? 肩こりのこと?」
「マイトは格好つけるだけで、バニーは能力使わないし、パフェは怠けてばっか……」
その言葉の途中で自動の扉が静かな音を立てて開き、ザ・パーフェクトとハート・ビート・バニーが入ってきた。
二人の姿を見てピンキー・ポップル・マジシャン・ガールの背中に汗が吹き出た。
今の発言を聞かれてしまったかもしれない。
いつも飄々としていて多少強く出ても聞き流すラック・ザ・リバースマンの前だからと油断してしまった。
言葉自体は本音だったかもしれないけど、そこまでみんなを憎んでるわけじゃない。
基本的にはチームのメンバーは気に入ってる。
だからこそ、余計に多くのものを求めすぎてストレスが溜まってしまう。
ハート・ビート・バニーは優しいから聞いていたとしても気を使ってくれるかもしれない。
でもザ・パーフェクトはきっと反発して不満を言うだろう。
狭量なリーダーに付き合っているほど暇じゃない、なんてことをズバッと言いそうだ。
チームを抜けるなんてことを言われたらどうすればいいのか。
思わず呼吸が乱れ、目に涙が溜まってしまう。
ここで泣いたらますますリーダー失格だ。
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