第6章 factum<真実>

「今日は何かないの?」

彼女が期待に胸を膨らませた目で見つめてきた。彼女は私のこんな話ごときにこんなに幸せな顔をする。やめてくれ…私は人間の人生は悪魔として触れなければわからない。触れたということは殺したということ。だから天使がこんな話にとに胸をときめかせるな…

「流石に毎日毎日ないさ。寝た寝た!」

知らなくていい。そんな事もある。膨れ面で蝋燭ロウソクの前まで歩いて行く彼女が振り返り微笑んだ。

「おやすみ!」

彼女が口をすぼめて火を吹き消した。なんとなく彼女が無邪気で幼い少女のように見える。でも違う。よく悪夢にうなされている彼女を私は知っている。朝、目頭の窪みに溜まっている涙の意味も。

火が消えると窓から見える星が一段と明るく見えた。光が消えてこそ見える光がある。

「蝋燭、あたしが消したかった………」

何故かそう思った。呟いたけど彼女は既に眠りに落ちていた。

私は眠れず、自分の手を握った。セラフィムの人生が流れ込む感覚が蘇る。苦痛、絶望………もう今はその感情を美味しいとは感じない。


天使には二種類いる。神により生み出された天使と神により翼と力を与えられた人間の二種が。天使になった人間は生まれ変わる、そのため人間の記憶はない。でも血に巡る記憶は生きている。悪魔セイレーンはその人間の記憶なら触れられる。同じように悪魔セイレーンも元からと堕天使の二種がいる。人間は脆い。見えないものを信じ、見えないものに苦しめられる。彼女だって能天使を信じて待っていた。それで気が付いた。根からの天使と人間だった天使は根本から違うことに。彼女に気がつかなかった能天使と今でも愛し続けている彼女を見てそう思ってしまった。セラフィムとアモーは人間だった。初めてセラフィムにあった時に触れて知った。人間の頃にもセラフィムがアモーを愛していたことに。そして彼女はセラフィムの為に死んだ。それに罪を感じ神にがったこと、そして天使になったこと。そしてそのとざされた記憶が天界で彼女と再会したときにセラフィムだけが暴走したのだ。彼の意識の外で。

私がアモーの体でいた時に教えてやった。ただの一介天使にこれ程までに惹かれる理由。能天使と違って彼女が美しいから惹かれたのではないと。だから私の魂が入った彼女の体では抱けなかったのだと。


神様ってのは人間共が思ってるより神様なんかじゃない。

神よ…あんたは間違ってるよ。悪魔なんかが言えたもんじゃないか…。

この世界は傲れた神の創ったただのチェス盤だ。その続きを天使が己の羽で織り上げていく。

だから美しい。そして穢れている。そんな世界が私は嫌いだ。彼女を苦しめるこの世界が。大嫌いだ。

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