愛のかたち
朝矢 真宗
愛のかたち
「ねぇ、カズキ
あたし達もそろそろ結婚しよっか」
そう言って真由はベッドの上でオレの上から身体をズラした。上目使いでニヤニヤしながらオレの表情を伺っている。
「あぁ。それって披露宴とかしたいってこと?」
「うーん、披露宴は別にいいかなぁ。なんだかめんどくさそう」
「まぁ、職場のヒトに紹介とかする意味合いが大きいよね、披露宴って」
「あたしはカズキを職場の同僚には披露宴なんかで見せたくないなぁ。給湯室でいぢめられそう(笑)」
「えー?笹野さんや神谷さんとか?
仲良いんじゃないの?」
「仲はそこそこ良いんだけど真里も理香子も最近別れたばかりだからねぇ。カズキとのことバレたらきっとネチネチいぢめられるわ。
カズキは我が社の独身女性だったらみんな狙ってるんだよ?専務と結婚できたら将来は社長夫人だ!って?」
「いやいや、そんなことないだろ。父ちゃんまだ還暦迎えてないよ?これから長期政権でしょ。
それに、そもそも真由にしかモテたくないし、オレ。
そんなモテ期、来たことも聞いたこともないから(笑)」
「かー、ヤダヤダ、でっかい図体して無自覚イケメン鈍感野郎なんだから」
「鈍感野郎って酷すぎだろ(笑)」
「じゃあ、気の利かないニブヤロウ?」
「悪化した!?」
「まぁ、カズキはあたしのことだけ可愛がってくれればいいのよ」
「そうさせてもらうよ」
「じゃあ、キスして」
「はいはい、かしこまりました、姫さま」
「わかればよろしい」
オレは真由の細いアゴを右人差し指で俗に言う顎クイをして長いキスをする。真由の優しい匂いと甘い香りが鼻をくすぐる。
オレは真由とキスするのが好きだ。
愛されてる気持ちが伝えられるし、伝わってくる。
今まで真由とはいろいろなことがあった。
オレは何度も真由を泣かせたり、困らせたりしたこともあった。オレ自身、オレは最低なヤツだと思う。でもオレみたいな最低野郎を真由はいつも愛してくれていた。だからこそ、オレは真由を大事にしたいと思っているし、真由だけが今のオレの全てだ。
「そもそも今の状態は十分に結婚している状態にある、と言えるぞ」
「そうよね。
両親公認で同居してるし、セックスもしてる。収入は共通に管理してるし。朝は一緒に起きて朝食を食べて、オフの日は昼食も一緒だし、夜は同じベッドで寝てる。世に言う結婚してる夫婦と、してることは同じよね」
「書類上、オレと真由は今のところは義兄と義妹だな。両親が再婚してそれぞれ連子として兄妹として育ったわけだ。オレは真由のことは小学生の時から知ってるし、真由もオレのことは小学生の時から知っている。そう言う意味では、中学の友達たちや高校、大学の頃の友達はオレ達のことは兄妹だと認識してるよね。いわゆる幼馴染とも言えるのか。まぁ、オレ達には本当にいろいろなことがあったけど、そうして今がある」
「でも、けじめってやつも必要なのかな、って思うのよね」
「けじめねぇ。まぁ、結婚指輪は買いに行こうか
真由が高城さんみたいなイケメンさんからしつこく飲み会に誘われてるのは気に入らないからな」
「高城さん、悪い人じゃないんだけど・・。
でも、あたしはカズキのものだから鬱陶しいだけなのよね。そっか、結婚指輪か・・・盲点だった」
「そう言う意味もあって薬指に指輪するんだろ。もう相手がいますよ、って意味で?」
「でもそれだと、世の中の不倫はどうなのよ?」
「背徳の性欲の味ってやつなんじゃないの?まぁオレは真由さんがいるから関係ないけどね」
「不倫したらカズキのアレを噛みちぎるから覚悟してね」
「こわっ!
そう言う真由さんこそオレを捨てたらストーカーするから覚悟してね」
「出たー、シスコン発言」
「真由さん、そこでそう言う返しは良くないと思うんですが」
真由は幸せそうに身体をオレに密着させる。オレは回した右手で彼女の背中を優しく撫でる。滑らかな彼女の肌は吸い付くようなキメの細かさが心地よい。
「しかし、確かに婚姻届くらいはそろそろ役所に出しに行くか。実際一緒に住んでるわけだし」
「そうなのよね。まぁ、両親公認で
既に一緒に住んでて、そもそも住み始めて五年にもなるわけだし、特に新居に引っ越しするわけでもないから特別感が無いのよね。
それに結婚届出してないから今のあたしって内縁の妻ってことになるのかな?
あら、内縁の妻って、なんかそこはかとなく淫靡な響きで素敵」
真由は前髪をかき上げてオレの首筋に顔を寄せると軽くキスして身体全体を預けてくる。
「内縁の妻って、普通に今の時点では兄妹なんじゃないの・・・」
「でもさ、そもそも苗字は元々が同じなんだし、役所の戸籍とか住民票?的な書類上のことはともかく、一緒に住んでて不便はあまり感じないような気がするんだよね。
むしろ結婚した先輩達の話聞くと名義の変更とか大変だったって聞くんだけど、あたし達の場合は・・・
ねぇ?」
「子供できたら慌てて籍入れるっていうのはオレ的にも、なんだかなぁ。
でも住民税やらなんやらが多少は節約できるのかな?」
「住民税って前年の収入から計算されるんじゃないの?」
「よくわからん(笑)」
「だよね、アタシも(笑)」
真由はシーツを体に巻き付けながらベットの上で身体を起こした。
その仕草がオレ的にはグッとくる。彼女の長い髪が肩からこぼれ落ちてふくよかなか乳房の横を通ってオレのヘソのそばをサラリと掠めた。
「とりあえず朝ごはん食べよっか
パンケーキにでもする?」
「そうだな、なんだかオレもお腹空いてきた。
どうせならメイプルシロップをたっぷりかけたいな」
真由はオレのリクエストを聞いて晴れやかな笑顔で微笑むと、ベッドからスルリと抜け出してキッチンに消えていった。
愛のかたち 朝矢 真宗 @2boldly5
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます