盲目な恋②
今から二年前になる大学一年生の夏の日、高校の時から付き合っていた彼女に玲太は呼び出された。 それは柚季ではなく別の女性で、莉津歌(リツカ)といった。
「どうしたの? 急に呼び出して」
「急でごめんね。 別れよう、私たち」
莉津歌は単刀直入にそう言った。 玲太は突然のことに頭の中が真っ白になって、何を言われたのかよく分からなかった。
「え・・・?」
「他に好きな人ができたの。 その人と付き合うことになったから、別れてほしい」
「そんなッ・・・」
「ごめんね、今までありがとう。 じゃあね」
あまりにもあっさりとした別れだった。 それもそうだ。 莉津歌はもう玲太には興味がないのだから。 莉津歌はそれ以上何も言わずにこの場から去った。
玲太に反論する隙を与えないようになのだろうか。 玲太はたくさん泣いた。 目を瞑ると、楽しかった莉津歌との思い出がたくさん蘇ってくる。 二人は家でのデートが多かった。
理由は簡単で、二人共パートナーが傍にいればそれだけで幸せだったから。 一日中抱き合って終わる日もあった。 家でのデート中、玲太は座っている莉津歌を後ろから抱き締める。
すると莉津歌はくるりと回って対面し、そのまま抱き返した。
「レイちゃん好き」
「僕も、りっちゃんのことが好きだよ」
「ふふ。 レイちゃん、可愛いなぁ」
「りっちゃんの方が可愛いから」
「そんなことない」
二人は終始甘々だった。 今思うとそれが原因だったのかもしれない。 ずっと家にいるだけで何も彼女に与えていなかったのだから。
―――・・・飽きられた、のかな。
―――昨日まで、あんなに好き好き言ってくれたのに・・・。
フラれた場所で座り込み一人泣いていると、背後から声がかかった。
「そんなところで一人で泣いてどうしたの? 玲太くん」
これが柚季との出会いだった。
「えッ・・・!? えっと・・・」
「私の名前は柚季。 よろしくね」
「よ、よろしくお願いします・・・?」
「どうして疑問形なの?」
「だって、急に話しかけてきたから・・・。 それに僕の名前・・・」
おどおどとしていると柚季は玲太の隣に座った。
「玲太くんのことは知っているよ。 だから心配で、今声をかけたの」
「どうして僕のこと、知っているんですか?」
「私の入っているサークルに和也(カズヤ)くんっていう後輩の子がいてね。 その子から、玲太くんの話をよく聞くのよ」
「あぁ、和也か・・・」
和也は大学に入って一番最初にできた友達で、大学では一番仲がいい。 アクティブな和也とは違い、大人しい玲太は何のサークルにも入っていなかった。
「それで、どうして泣いていたの?」
「さっき、三年以上付き合っていた彼女にフラれたんです。 一緒の夢を目指して、一緒の大学に入ったんですけど・・・。 付き合いが長いせいか、凄くショックで」
「どうしてフラれたのか、聞いてもいい?」
「他に好きな人ができたからみたいです」
「・・・怒ったの?」
「え、どうして怒る必要があるんですか?」
「だって、それ浮気だよね?」
「そうかもしれませんけど、僕は怒りません。 相手は僕の好きな人ですよ。 好きな人に怒るなんて、そんな・・・。 それに浮気されたということは、僕にも悪いところがあったっていうことですし」
「ふーん・・・」
―――・・・それだけ?
「あ、今“それだけ?”って思ったでしょ」
「え、あ、いや、そんな!」
「私、綺麗事は嫌いなの。 今ここで『女なんてこの世の中にはたくさんいる。 彼女よりもいい人を見つけなよ』とか言われても『だから何? 自分はその人がいいんだけど』とか思わない?」
「・・・思う、かも。 確かに今は、綺麗事を言われる方が苦しいですね」
「でもね、泣くのはいいと思うよ。 涙はいつか、自分を成長させてくれる力になるからさ。 ・・・玲太くんが泣き止むまで、ここにいてあげる」
玲太はたくさん泣いた。 不思議と柚季と一緒にいるのは居心地が悪くなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます