48.デザイナーベイビー

 デザイナーベイビーとはオートマタの、いわば素材である。自分も。一緒にここに滞在しているレルラも同様である。

 そのレルラと、双子であるエルリがテグストル・パールクでの保護対象だった。その街を離れて以来、笠原工業に追われている。


 オートマタ産業で名を馳せたその企業こそ、裏では違法オートマタを製造して混乱を生んでいる元凶であり、その素材である自分を追っているのだ。


 違法オートマタとは、笠原工業の真似事をしている違法業者が、正規オートマタを改造して放置したもの等も含まれる。もっと簡単に言うと、頭上に円環の掲げられていない機体は全て違法である。これらの対処をするのがいわば自分たちのような職種である。


 そして、さきのデザイナーベイビーを媒介して笠原工業によって製造された機体も違法に含まれる。これに唯一成功した機体が、ウェティブと呼ばれる物で、伊野田と同時期に造り出された素材である。


 それは、違法オートマタに自分のデータを転送して自己増殖ができるやっかいな機体で、笠原工業はこういった機体を増やそうと目論んている。ウェティブもウェティブで、笠原工業の言いなりという訳でなく、人間として生活している伊野田になり変わるため、暗躍している。

 

 ウェティブはこれまでになんども、違法オートマタにデータ転送して伊野田の前に現れてきた。数ヶ月前にはIDを奪われもしたが、なんとか妨害できた。伊野田としても、やられっぱなしでいられる訳にはいかず、かたっぱしから違法機を破壊して歩いては、笠原工業の邪魔をし、ウェティブに自由にさせないように動いてきた。


 しかし、テグストル・パールクでは大失態である。現地ではオートマタがメジャーでないため、ウェティブの追撃は免れたが、笠原工業にしてやられた。秘書の櫛田の登場である。なんの変哲も無い人間の男にしてやられ、デザイナーベイビーのエルリを奪われた挙句に自分は動けなくなった。


 そんな苦い気持ちを潰していくように昼までにはリハビリも兼ねて軽いトレーニングをする。筋トレもそうだし、実戦トレーニングもする。


 ここに来た当初は非常に動きが悪かったので、それに比べれば幾分か状態は改善されたと言える。現在マイナス値にある筋力と体力を、0値まで戻すことが目的である。いくら戦闘スタイルが身についているとは言っても、それを発揮できるコンディションに戻らなければ意味がないのだ。


 そして自分たちは追われている身でもあるため、日中はいつでも戦闘服を傍らに置いている。軽くて柔らかい素材だが耐久力と伸縮性に優れた作りになっているもので、すぐ羽織れるように腰に巻いている。昼食を用意していたところで、ふと自分の姿がガラス越しに視界に入った。「なんか消防士みたいだな」と思わず独り言を漏らす。すると笠原拓がタイミングよく扉をあけて入って来た。色黒茶髪の見た目のせいで軽率であると誤解されがちだが、実際はそうでもない。

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