43.苛立ち
「動けるわよね?先に行ってくださる?」
厳しい面持ちと相反するほど丁寧な口調で日向が言い放った。相当苛立っているのは間違いないようだが。
「あんたは?」
「いまの破裂で人が来るはずよ。目立つ行動はしたくなかったけど、今のがなければ正直危ないところでしたわね」
「悪い、つい投げちまった」
黒澤は声を絞り出して、それだけを口にした。ウェティブは衝撃のせいで目でも回したか数秒なら稼げるだろう。
「私はあの小憎たらしい機体を足止めしてからお暇するわ。時間を掛けすぎてしまったわね。佳奈ちゃんからナビは送られてきてるでしょ」
「あぁ、届いてる。任せた」
言いながら黒澤は短く息を吐いて、倉庫の窓へ駆けだした。窓の外に既に何かがいる可能性は無視して飛び越える。
「あなたの相手はこちらよ」黒澤を追おうとするウェティブの前に日向が立ちはだかった。優雅に手招いているように見えるが口元を吊り上げ顎を突き出すような姿勢で、かなり強気であることは確かだ。
「そんなにアトラスが大事なの? 意外だな」
日向はその呼び名を聞いてあからさまに嫌悪が漂う顔つきになった。彼女はそれをごまかす様に言い返す。
「私、借りはちゃんと返すタイプなの、それだけよ」言いながら、自分の斜め後ろに設置されていた非常用設備内の斧の方へゆっくり後退した。ウェティブがまだ動かないことを期待しつつ、足を滑らせる。
「あなたが、アトラスの。伊野田の外見を真似たところで、私が動揺すると思ったら大間違いよ。私の前に立ち塞がったこと、後悔させて差し上げます」
「後悔してるのは自分じゃないの? 知ってるよ、この右腕が無くなったのってあんたのせいでしょ」
「黙りなさい」
同時に片手で設備のガラスを割り、素早く斧を取り出した。それを小枝でも操るかのように頭上に振りかざし、一気に叩き落す。地面が抉れ、破片が散る。既にそこにウェティブの姿はない。それが跳んだ方向へすぐに向き直った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます