倉庫街の戦い
42.苦戦
口の中で鉄の味、いや土の味がするのは自分が寝そべっているからだと黒澤が自覚するのに時間はかからなかった。どうしようもなく不味いし、体も痛む。背中のボディバッグに詰めた素材は保護してはいるものの、破裂しないように守りながら戦ってるのと、接近戦が得意じゃないのが響いた。
日向がフォローに入ってはくれてはいるが、彼女も相当苛立っている。相手は違法オートマタとはいえ伊野田の姿だけでなく戦闘力を模写しているというのも、ハッタリではなかった。
ウェティブはこちらの長所を瞬時に封じ込め、自分を地面に叩きつけてきたのがまさに今だ。左腕に装着していたスリンガーは破損し、射撃ができなくなった。小型ボーガンはまだ使うことができるが、そんな暇を与えてくれることはない。以前のワームよりよっぽど厄介だと笑い出したくなるが、伊野田の顔をしたウェティブの追撃は止まない。
その奥では日向が、頭をふらふらさせながら立ち上がろうとしているのが見えた。黒澤も地面を転がりながら反動で飛び起きるが、暗がりの中わずかな光に反射したナイフの切っ先が見え、明らかに眉間を狙っているのがわかった。
破損したスリンガーを小手代わりに受けるしかないと構えたその時、まったく別の場所にキリで一突きされたような衝撃が走り、黒澤は思わず息を詰まらせ身をよじった。倒れこむわけにもいかないので、ほぼ傷みが支配している脳回路のわずかな隙間に命令を飛ばし、なんとか膝を支えた。
代わりに、こみ上げてきた不快感はためらいなく一気に吐き出し、ウェティブの目を見据え、できる限り体を捻りながら右腕を押し出した。それは一瞬こちらに背を向けた体制になることで黒澤の追随を交わし、続けざまに蹴り上げた足が黒澤の視界に入ったことが分かった。
舌打ちする間もなく顔面への衝撃に備えようと歯を食いしばったが、ウェティブの体が突然背中からのけ反り、勢いよく反対側の壁に飛ばされていった。どうやら起き上がった日向が、背後からウェティブに掴みかかり投げ飛ばしたらしい。
黒澤は間髪入れずに一か八かで衝撃グレネードを投げつけた。暗がりを灯す閃光は、どのグレネードよりも眩しく、初めて倉庫全体の様子が垣間見え、次いで大きな破裂音が響いた。倉庫の外にも光は漏れただろう。
これで人が集まりやすくなってしまった。うかうかしていられない。その気持ちと裏腹に思わず片膝をつくと、一気に油汗が噴き出してきた。左わき腹の急所を、ナイフの柄で突かれでもしたのだろうか。ウェティブ以上に伊野田本人ですら殴りたくなるような痛みをなるべく無視して、息を吐きだしてから立ち上がった
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