第21話 『ゲーム』

「まあ、聞いてくれ。『君が勝ったらこの世界はクリア』『君が負けても、クリア、だが、私の話は聞いてもらう、1つ頼みごとがある』」


 こいつを……こいつを信じるべきなのか。もし、これが本当ならみんなが救われる、みんな幸せになるんだ。


「話に乗るかな?」


 ――――――


「俺は……俺は……いや―――」


 ―――話に乗るよ―――


「それは良かった」


 コニア、否、託は企みがありそうな、裏がありそうな笑みでそう言った。やっぱりこいつを信じることは無理だ。


「では、話の続きをしよう。勝ち負けを決める『ゲーム』は何か、だ」


「直接対決か?」


「そんな、私はシステムの力を使ってしまうからね、君は勝てない」


 勝てない……言われて腹が立つが確かにそうだ。システムの力を使う、これはチートを使えるということと同じことになる。あの時、最初に見たものは『管理者権限(アトミスギャリアック)特別使用空間移動(ハイクムーブメント)』。管理者権限だ。


「浮いていたからね。あの時はあまり使いなれていなかった」


「お前……心を読めるのか?」


 確実に考えていることを知って話始めた。管理者権限とは……


「管理者権限とは、か」


「やっぱり読めるんだな。いや、知れるのか」


「さすが、選ばれし者、とでも言おう。管理者権限。このゲームの管理者にはさまざまな権限を持っている。ヴァジスは脳に直接信号を送りこうやって現実の体は動かずこっちの世界では動くわけだ。脳の信号を制限できる、と言ったほうが速いね」


 そうか、脳の信号を制限することができるヴァジスを管理者が操作できるとしたら―――記憶、体の動き、『考え』が操作や知ることができる……か。で、システムの操作も可能なら宙に浮くことや、モンスターに―――


「魔法を与えることだって可能、かな?君の考えは鋭い」


「だからどうしたんだ?あくまで予想だったが……お前はAIを出して、元殺人ギルドのリーダー男に渡して他の計画と俺の偵察をさせた。神殿ダンジョンでは、リザードにナイフを刺し、何かを入れた、もしくはシステムをいじった。ただそれは良いようにならずに一振りの力以外はダメだった。これは別に俺でなくても誰かが来てくれればよかった、と思ってただろうな」


「ほう、鋭いな。ほとんど言っていることは合っている。他の計画はさすがにしていない」


 まだ信じられない相手、いや、信じられない。計画は進めていると考えておこう。これも聞かれてるだろうけど。


 託は笑みを浮かばせた後、話を戻した。


「少し話題が離れすぎたが、勝負のことだ。私と勝負をするが、直接対決ではない。KSOには早期購入特典で魔法が使えた。ただ私がゲームをしたかったがために失くした」


「ああ、すごく楽しみにしていたものを無くされて腹が立ったよ」


 今までやってきたクエストも魔法さえあれば英雄なんて簡単になれただろう。最初は英雄をあこがれていたのに。


「それは申し訳ない。ただ、君は英雄になれる。今から」


 そう言うと指をパチンと鳴らした。それと同時にヒルガオの姿が消え、俺と託は違う空間に飛ばされる。真っ暗な空間へ。


「ここは?」


 俺は託に問いかけた。すると託は空中で指を振り、周りに画面が映した。画面には闘技場。観客席には埋め尽くされた観客ばかりで、俺たちの姿が見えているらしい。


「何がしたいんだ」


 画面を見ているとユイやエミ、アイルの姿も映っている。突然のことに驚いていた。


「私はゲームをしたい。ただそれだけだ」


「そのゲームが何なんだ?」


「……そうだな。では、選ばせてあげよう」


 託は人差し指を上げる。


「1つ目は、今から私が新ダンジョンで新しいクエストをしてもらい、クリアできたら君の勝利、というゲーム」


 新ダンジョンとなると攻略方法が不明な状態で始まる―――できないわけではない、か。


「2つ目は、私と対戦。もちろん管理者権限はなしだ」


 こいつと対戦は……あまりしたくない。使わないと宣言しても使う可能性が高い。


「最後に3つ目、『次』だ」


「次……?」


「ああ、次だ。このKSOでは降参し、私の頼みごとを聞くか、だ」


 良い提案だろうと言う託。俺は無視して、どちらの『ゲーム』にするか悩んだ。新ダンジョン、それがどんな場所なのか聞きたいが、教えてくれそうにない。対戦は無理。だとしたら―――


「仕方ない。1つ目にするよ」


 俺がため息をつきながら言うと笑みを浮かばせ「分かった」と言った。画面に映っている人たちは、託の笑みを見て沈黙へと変わっていく。


「さあ、ゲームを始めよう」


 *


「遅い!!」


「遅いですね……」


「遅すぎるよな……」


 私たちは広場でサクト君を待っていた、けど―――


「すぐに帰ってくる、とか言ってたのに待たせすぎだと思うけど!?」


 かなりイライラしていたけれどすぐに私は平常心に戻す。


「じゃあ……行くか?」


 アイルが言って歩き出そうとする。私とエミは猛反対して鞘から剣を抜き本気で斬ろうとした。その時。


「おい!なんか光ってるぞ!?」


「本当です!!これ、転移するときの!!」


「え……?」


 手のひらを見ると白い光が発してた。すぐにメインメニューを開こうとした瞬間、目の前が真っ白になる。まぶしくて目を閉じ、数分経った頃に目を開く。


「ここ……は?」


「闘技場です……ね」


 観客席になぜか座っている。立ち上がろうとしても何かの壁があるかのように立ち上がれない。


「おい!見てみろよ!」


 急に大声を出し、闘技場の中心に指を指す。私はその方向へ視線を向けた。


「サクト……君?」


 黒い画面には、2人の男の姿。その1人の男は、『サクト』だった。

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