第20話 『き、お、く』と『決断』
「―――以上だ」
「了解」
ヒルガオと俺の話が終わり、ユイたちのいる広場に向かい始めようとした時だった。ヒルガオの背後に誰かがいる。俺は服の内側に隠し持っている短剣を握り、どうにかヒルガオに知らせようと目線で訴えるが気づいてくれない。
「やるしかないのかよ」
俺は剣技、『投剣』の準備を始める。エフェクト光が輝き始め、さすがのヒルガオも気づき、俺を警戒するように腰の鞘に手をかけた。暗殺なのかと思うだろう、誰でも。
「足の速さ……無理か。隙間を狙う……これがいいかな」
僅かに見える黒い人影に狙いを定め、剣を投げた。とっておきの剣を。
「殺すつもりなの……か―――?」
鞘から剣を取り出し、俺の投げた剣をはじこうとするが、剣は止まらなかった。そのまま剣を貫通し、ヒルガオの背後にいる『誰か』に命中。
「ヒルガオ、ちょっとどけてくれ。なんでか知らないけど、本能が、勘がそう言ってる」
「――――――分かった」
そう言うと、ヒルガオは俺の背後へ周り、鞘に剣を収める。『誰か』はこちらを向いて舌打ちした。顔や体格を見ると、男だ。
「―――――ばれるとは思ってなかったな……」
「なんかお前、会ったことあるな」
見覚えがあるはずなのに、思い出せないと思ってしまう。意味不明な状況で困惑していると、男は「そうか」とつぶやいて話し始めた。
「すまなかった。これを返そう」
男の手の平には黄色いビー玉のような球が乗っていた。その球は俺の頭の上に行き、ゆっくりと頭の中に入っていく。
―――俺は、走馬灯を見た、否―――
「今回デュエルマッチをする人は!VRMMOをこよなく愛し、いろんなゲームをなんなくと最速クリアしていく最強騎士が今回KSOにコンバースしたぞ!!!その名は~……コニア!!!」
なんだろう、周りは盛り上がっている。あ、この時、観戦しようって思ってたっけ。
―――俺は、走馬灯を見た、否―――
「続きまして~~~!!!あの最強騎士に立ち向かう新人騎士!!クリエ!!」
腰元に緑色の鞘の男。こいつもよく覚えている。憎い存在、だったと思う。
―――俺は、走馬灯を見た、否―――
「それではあと30秒で始まりますよ!!賭けるものは、コニアが金貨50枚。クリエが自分が所持している剣だそうです!!」
すると人ごみの中にいる1人の男が声をあげる。
「おいおい!!割に合わねえだろ!!」
「まあまあ。このデュエルマッチは僕も同意の上でやっているから許してあげて?でも負けることは絶対ないから。剣は僕、アイテムストレージにたくさんあるからあとであげるね!」
みんなに手を振りながらそう言った。
「やっぱりコニアさんは良い人だね。クリエも見習ったほうがいいんじゃないのかな~」
あえて聞こえるように大きな声で言う女。
「それでは!!デュエルスタート!!!」
デュエルマッチは迫力がすごい、でも、このマッチだけは違った、ような気が―――
―――俺は、走馬灯を見た、否―――
飛ぶように進んだクリエは横から剣を振りかぶる。すると赤色のエフェクト光が発されコニアの腕を斬ろうとする。これは剣技、『シュートクル』、最速のソードスキルと呼ばれている直線斬り。
そのソードスキルをすぐに見切ったコニアはクリエの剣を横に受け流して顔に傷をつけた。顔に赤いエフェクトがされる。
「さすがコニア!!いけ~!!」
……ん?最速のソードスキルを見切る……?何か、何か分かりそうな。そんな気が。
―――俺は、走馬灯を見た、否、自分の……―――
「君とデュエルマッチをするの楽しいよ。またやろうね?」
コニアがクリエにそう話しかけた後、後ろから振りかぶった白い剣がオレンジ色にエフェクト光を発しながらクリエの剣めがけて撃ちだされた。このソードスキルは『ギルガル』。武器を破壊するときに使われるソードスキル。
「甘い」
クリエはそう言い一瞬で剣を避けた。ゲームで出せるスピードの限界をはるかに超えている。
ゲームの速度を……超えている―――?誰だ……誰だ、誰だった―――
―――俺は、走馬灯を見た、否、自分の……―――
「もういい。最強がこの程度なのが残念だ」
声がエリア中に響き渡り、クリエは宙に浮く。ユーザー全員がクリエの姿を見て驚いていた。
「魔法なのか!?あの早期購入特典の!」
「違う。これは管理者権限アトミスギャリアック特別使用空間移動ハイクムーブメント。つまりこのゲームを作った者のみが使えるものってわけだ」
作った者……作った者……託―――『託』だ。
「これから君たちにゲームをしてほしい。現実世界を救うゲームを」
こいつ……こいつか……思い出せた。記憶がなかった部分を思い出せたぞ。
―――俺は、走馬灯を見た、否、自分の、『記憶』―――
全員が、絶望へと陥っていく。ひどい、ひどかった。
宙に浮いていたクリエはより高く浮き、大きな声で言った。
「さあ!!ゲームの始まりだ!!!!」
何度も耳で響く。『ゲームの始まりだ』『ゲームの始まりだ』『ゲームの始まりだ』と。
―――俺は、前にいる男を見た。ああ、見つけた―――
「クリエ、いや、託」
「もう、我慢ができなくてね、現れた。本当はそこのヒルガオを意識不明まではさせたかったが、ゲームだからね」
何がゲームだ。こんなの、ゲームなんかじゃない。2つ目の『現実世界』だ。
「そんなに怒らないでほしいね。チャンスをあげに来たんだ。良い話だと思うだろう?」
正直、こいつの話なんか聞かず剣を抜いて斬りたい。KSOにいる人が味わっている痛み、苦しみ、不安、怒り、すべてをあいつに叩き込めたい。
「聞く気なんて……」
「まあ、聞いてくれ。『君が勝ったらこの世界はクリア』『君が負けても、クリア、だが、私の話は聞いてもらう、1つ頼みごとがある』」
こいつを……こいつを信じるべきなのか。もし、これが本当ならみんなが救われる、みんな幸せになるんだ。
「話に乗るかな?」
――――――
「俺は……俺は……いや―――」
―――話に乗るよ―――
「それは良かった」
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