第19話 再会

<49階層 コロガ平野>


 俺とユイとエミ、アイルはヒルガオに指名され、49階層でまだ簡単なほうのクエストのクリアを頼まれここに来ている。地面は黒く、空は青い。あんまりこの景色を見たくない、気持ちが悪くなりそうで。


「おい!!なんか変な奴いるぞ!?」


 アイルが指をさしている方向を向く。そこにはペンキか何かで真っ黒と染められていた不気味なホークリだった。そいつは一体だけじゃなく何体も。


「いったん倒したほうがよさそうだな」


 このモンスターがどういう特徴があるのか、普通のホークリとの違いがあるのかを調べるためには戦ったほうが速い。

 俺たちは鞘から剣を抜いて戦おうとした瞬間だった。


「先に失礼」


 誰かの声が後ろから聞こえた。それと同時に鋼の音が響き渡る。


「ふぅ……思った以上に弱いな~……」


「お、お前……」


 目の前に立っていた人。男だ。真っ白な服装。かなりの剣さばき。


「なんでここにいるんだよ、コニア」


「僕が来て悪かったかな?」


 悪いわけではない。ただなぜこいつがここにいるのかということだ。確かこいつは地下ダンジョンへ行ったときに行方不明となっていたはず―――


「行方不明になっていたはず……かな?」


「そうだ。お前はどこにいたんだ」


 そう聞くと少しだけ笑みを浮かべ口を開く。


「現実世界に戻ってから。そういうことにしておいて欲しいね。保留でよろしく」


 なんで保留なんだよ……隠す理由なんてまったくないはずなのに。


「ここにいる理由は?わざわざここに来る意味があるんだろ?」


「サクト君に会うために。ただそれだけ……と言いたいところなんだけどね――――」


 コニアはどこかを指さした。その方向にあったもの、否、いたモンスター。ホークリのように真っ黒のモンスター。全身が骨で姿はティラノサウルスによく似ているが、足がかなり太い。こいつは真っ黒じゃないほうは戦ったことがある。200以上殺した凶悪モンスター。HPバーは6本。前より多い。


「このモンスターを倒すために来た。が一番の目的、かな」


「そうか。それはありがたいな!行くぞ!」


 全員が一斉に地面を蹴る。モンスターの攻撃が来る前にダメージを与えておこうという作戦だ。かなりいい作戦ではあるが、モンスターが素早く攻撃を仕掛けた場合、全員にダメージが当たる可能性がある。それだけは回避したい。


「俺は回り込んで攻撃する!正面頼んだ!」


「僕はそのつもりだった」「了解!」「分かりました!」「任せとけ!」


 みんな一斉に斬っていく。俺もいろんな剣技を出してダメージを与える。1本、2本と減っていくHPバー、疲労は決して無限ではない。残り2本と言うところで技の速度が落ちた。


「結構限界だ……攻撃力はある、30秒でここまで減っただけかなりいい感じだからな」


「攻撃来るよ!!」


 ユイが大声で言う。それと同時に真っ黒の腕がこちらに向かって来る。速度が遅い、否、そう見えているだけだ。精神だけが今動いている、そんな感じだ。


「危ない」


 落ち着いた声が目の前で聞こえる。剣で腕を止めている人の姿も。そして俺は再び動き始めた。


「ありがとう、コニア。斬れるかどうか……」


 コニアにお礼を言って、剣を構える。深呼吸をし集中力を高めていく。そして2つの剣を素早く振った。これで腕が斬れなければ、かなりダメージを受けることになる。


 ―――斬れろ、斬れてくれ―――


 剣は深くまで入っていく、剣技を使ってより斬れるようにしていく。


 ―――いける、いける!!―――


 あと少し、集中を切らさない。少しでも他のことを考えてしまったら斬れなくなる。そして、死ぬ。


 ―――いった!!―――


 剣はしっかりと腕を斬り落とすことができた。HPバーは残り1本もない。けれどモンスターも何もしないでただやられるわけではない。攻撃を必ずしてくる。


「いったん下がれ!!攻撃が来るぞ!!」


 俺が指示を出すと軽くうなずいて後ろに下がり、ポーションを使ったりと次に控えていた。モンスターの攻撃範囲外だと思って。


「しっぽ!!リーチが長い攻撃が来るぞ!!」


 モンスターの尾が光り始めたのだ。こんなの攻撃以外ありえない。誰でも察する、はずなのに―――


「僕は大丈夫だと思う」


 馬鹿が1人いた。まあ、こいつは強いからいいとしよう。何かあったら避けたりできるだろう。


「俺は頭を狙う!みんなサポートよろしく!!」


「分かったぜ!」「了解!」「分かりました!」「僕はやるつもりだった」


 少しコニアに腹を立てながら地面を勢いよく蹴る。モンスターの頭に一直線に突っ込んでいく。するとさっきまでずっと光っていた尾が動き始め、尾だと思えないような動きを始めた。まるで尾は尾で生きているかのように。


「空中にまで来るのかよ!!」


 大ダメージ確定かと思っているとアイルが尾を止め、ユイとエミで尾を斬り落とす。コニアはモンスターの攻撃手段になりそうな部分をすべて斬り落としていった。


「腹立つのにさすがだなっ―――」


 右手にあるアルメリアで剣技、回転3連撃『ルーリメリア』でモンスターの首めがけて放った。綺麗なエフェクト光とともに首は斬り落とされ、モンスターのHPバーは0本。


「意外と勝てたな……」


「僕がいたからかな?」


「ちょっと1発殴らせろ……?」


 何回も何回も腹が立つが何とか抑えてユイたちのところへ行く。


「サクト君!すごくよかった!」


 何がすごかったのかよくわからなかったが「ありがとう」と言って流す。


「戻るか」


 帰ってクエストをクリアしたこととコニアがいたことを報告に―――


「あの、1ついいかな?」


「どうした?」


 真剣な顔でコニアは言った。


「僕がいたことは言わないでほしい」


「え?」


 なんでと聞こうとした瞬間、コニアは人間には到底無理な速度でどこかへ走って行った。


「コニアさん、どうしたんだろう」


「それより腹減ったぜ……帰ろうぜサクト」


「―――ああ」


 言ってはいけない。なぜあいつの存在を伝えてはいけないんだろうか。そんなにまずいことがあるのか。


 ―――でもあんなやつが真剣に言うってことは相当なんだろうな―――


 俺は後でみんなに言っておこうと決め、ヒルガオのところへと戻って行った。

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