第7話 ボス攻略の難しさ
「イリンガル!」
俺が転移をして前を見るともう戦いが始まっていた。ソードスキル、イリンガル。回転4連撃。一瞬にして4回回りながら斬る少し難しい技。
「もう始まってるのか……」
「そうね……」
隣でうなずいているユイの姿が。
「うぉ!!!ビックリした!!」
思わず倒れそうになったが足に力を入れる。
「なんで倒れそうになってるのよ……」
ユイは心配そうな表情をしながらこちらを見た。俺は「大丈夫」と言い、前で戦っているボスモンスターの確認をする。
「早く戦いに参加しないと」
ボスは全員が骨で姿はティラノサウルスによく似ているが、足、前足がかなり太い。攻撃パターンは前足か足でプレイヤーをつぶす。噛む。その2パターン。動きは速く、モンスターが攻撃した後にある遅延が短い。HPバーは4本。2階層最後の敵としてふさわしい強さ。
「おらっ!!」
俺はソードスキルを2つ同時に使った。右手に持っているアルメリアは、さっき他のプレイヤーが使っていたイリンガル。左手に持っているヒペリカムはイリンガルに少し似ている回転3連撃の『ルーリメリア』。
二刀流はもともと実装する予定ではなかったため、同じソードスキルを出すことはできないようになっている。
最初にアルメリアを右に振り、1回転した後、アルメリア前に突き出し2回転目で同時にスカルを斬り、残り3回転を行う。
HPバーはみんなの一斉攻撃によって2本削れた。
「ギャギギギー!」
スカルが叫んだ瞬間、目が青く燃え広がっているような輝きが現れる。すると急激に移動スピードが速くなり突進をしてきた。すかさず剣を横にしてブロックするが後ろに飛ばされ、その後スカルが2人をかみ砕く。
「うわ~!!!」
「や、やめてく……れ」
HPゲージが黄色、赤色、と変わっていき、あっけなくゼロ。それからHPゲージを1本にするまでに300人の犠牲者。
「みんな固まって動きすぎだ!」
固まって剣を振っているせいでスカルの攻撃が来たときにすぐに逃げれずやられるということが起こっている。
「あの者の言う通り、広がれ!ギルドメンバーは1万もいるのだ!アイテムを使って他の者の回復などにあたり、できる限り固まらぬように!」
ヒルガオが指示を出すとすぐに行動し始めた。約5000人は後ろに下がり治癒ポーションをオブジェクト化し、地面に置いていき、他は、スカルの攻撃を受け止める奴らと受け止めた後に側面から攻撃する人に分かれた。
スカルが前足を俺に向かって勢いよく振り落とし、前足の骨が2本飛んできた。
「マジかよ!!」
俺は剣をクロスにして骨を受け止めると、キーンと音が響き渡った。しかし骨が重く、ソードスキルを使ってもだんだん後ろに下がってしまうようになってしまう。
「くっ……2本の骨だけでこの重さはやばい――――!!」
足の力が抜けていく。HPバーもじわじわと減って黄色の注意域に。その瞬間、俺がクロスにしていた剣のちょうど真ん中に後ろから白い剣が視界に現れた。
「これならどう!?」
ユイが必死に力を入れている。2人で受け止めているおかげでこちらが有利へと変わった。さっきまでの重さが消えていく。
「よし!!いける!!」
ギーンとまた音が響き渡り、骨がスカルの方向に飛んで当たり、HPバーを赤い危険域までもっていくことができた。するとヒルガオが「突撃!!」と叫び、その声と同時に全員が剣を振るう。
HPバーが0になりそうだった時、スカルは最後の攻撃を仕掛けてきた。体全体を使い素早く1回転。
「なんで!!!」
また犠牲者が、90人と多く出てしまう。それと同時にスカルのHPバーがゼロになり、白い光となり消えていった。
アイルがゆっくり近づいてきて、口を開く。
「犠牲者120人。アイテムが尽きてどんどん死んでいく奴らも……」
治療ポーションが尽きた――――?どうして……治癒ポーションは1人5個も配られていたんだぞ……犠牲者120、瀕死状態が80人いるらしいけど、残り俺やアイル、ユイ、ヒルガオを抜いても約800人いる……とりあえず俺の治癒ポーションを。
俺はすぐに瀕死状態の人、5人に治癒ポーションを一気に与えた。けれど、HPバーは赤いまま。
「バ……バグか……?今、そんなことが起きたら!!」
「あ……HPバーが!!死ぬ!!死ぬ!!!助けて!誰か!!誰か――――!!」
大声で叫び、悲鳴を上げる。目の前で人が消えて行った。
みんな暗い顔に変わり、何も言えない雰囲気。何もできない、してあげれない状況で、ただ見るだけ。
何か、何かできないのか!?少しでも、少しだけでも何か!!!
結局俺たちは何もできずに合計200人が死んでしまった。生きているにしても魂は永遠に暗闇の中に残る。
「犠牲者の死を受け入れ、次へ向かう。2階層は達成した」
そう言いながらヒルガオは剣を上にあげた。誰も何も言わない。ずっと沈黙が続く。ヒルガオはその空気を壊すように堂々とクエストクリア後に出現する転移ゲートへ戻って行った。
「なに、あれ……」
「やけに堂々としているな……人が死んでも何も思っていないのか?」
「そうかもな、あんな奴リーダー失格だ!」
いろいろと言いながらも一旦転移ゲートに向かい、帰ることにした。他のギルドメンバーもあれを不快に思ったのか、ギルドをやめようという話題が少し耳に入る。
転移した先は前までいた中央広場……けれど何か様子がおかしい。広さがとてつもなく広く、空の色が血のように赤く、地面は闇のように黒く染まっている。続々と転移してきた人たちは全員何が起こったんだという表情を浮かべる。
「お久しぶりだ。もう2か月経過した」
聞き覚えのある男の声。この声を聴いただけでも怒りが爆発しそうな。斜め上を見上げるとクリエ、いや、託の姿が。全員がこの場所に強制転移させられたらしく、約人が同時に託を見ている。
「今回で私が君たちに姿を現すのは最後だろう。私は姿を変えて君たちに紛れるからだ」
周りがざわつき始める。あいつが紛れて同じようにしようとおかしなことを言っていることに違和感と恐怖を感じていた。
「またニュースだ。良いニュースは、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)の導入だ。まだしていなかったからね」
NPCは、システムに沿った動きをするプレイヤーが操作せず、システムで動くコンピューターのようなもの。NPCがいることで料理等の仕事を行ってくれる。
その話を聞いても誰も何も言わずただ託の話を聞く。
「次は現実世界で何が起こっているか―――だ」
そうだ、俺はゲームの世界で2か月という月日を過ごしている。少しでも現実世界の体の状態などが知りたい。
託は今放送されているテレビの画面を1人1人の目の前に表示させた。俺は表示されたものをすぐに見る。
『続いてのニュースです。KSOの事件が起きて今の状況をお知らせします。病院に救急搬送されて病室にいる人数は約1万人でしたが、急に心臓の機能が弱まり、死亡した方が6000人』
死亡――――?あいつが言っていたことは嘘だったのか!?死なずにいるっていうのは。もしかしたら助ける方法があるかもしれないと思っていたのに……!!!
『ヴァジスを取ることができず、無理やり取ろうとした瞬間患者の魂が反応し、心臓の機能の低下が始まることが分かりました』
外部からの強制シャットダウンがほぼ不可能。したら魂に影響が起こる……なんだよ、それ。
そう思っているとテレビの表示が消え、託が口を開く。
「続いて悪いニュースだ。草原などに湧くモンスターが少し強くなった」
湧くモンスターの強さ調整が入ったらしい。2倍とまではいかないけれど1.5倍ほど。
「最後、また良いニュースだ。剣を種類、システムモーションの種類の増加。以上だ。次は最後のクエストで会おう」
すると託は白い光に包まれ消えていく。それと同時に空の色、地面の色が戻り、プレイヤーは強制転移する前にいた場所に転移させらていった。
「なあ、アイル、ユイ。パーティー組まないか?」
急に言われたことにアイルとユイは目を丸くさせた。
「な……なんで急になんだよ!」
「そ、そうよ!!」
「なんだ?嫌か……それならごめん。急に言って悪かった」
アイルとユイが慌て始める。俺が歩き始めた瞬間、アイルとユイが引き止めて「パーティー組もう!!」と言い、目をキラキラ輝かせた。
「……えーっと、いいのか?」
「おう!!いろいろ教えて欲しいこともあるからな!」
「私も……その、そうです!!」
何がそうなのか気になったがパーティー申請をした。アイルとユイはパーティー申請が表示された瞬間OKボタンを迷わず押した。何か嬉しそうな表情で。
「それじゃあ、よろしくな」
2人とも返事をしながらうなずく。左上にアイルとユイのHPバーが表示される。
パーティーとギルドは少し違うよう仕様がなったらしく、パーティーメンバーの位置が表示されるようになったそうだ。
俺たちはプレイヤーをかき分けて草原に出た。
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