第8話 『HYU』

 俺たちは中央広場から離れ、最初は草原に行こうとなっていたが、太陽が沈み始めていることと時間が7時を過ぎていたため、宿をとることにした。


≪2500年4月29日 午後7時00分 宿屋ミル≫


「宿の値段は?」


 アイルがカウンターに手を置きながらNPCに向かって話しかけている。NPCは女の人の姿で話し方や動きがシステムによって動いているように思えない。俺とユイは先に決められた部屋に向かっていく。


「えーっと……ここか、201号室」


「私はその隣の202号室。じゃあまた明日ね」


 ドアを開けてユイは部屋の中に入った。俺も続けてドアを開けて部屋の中に入る。端には木製のベット、真ん中に机、そこに4つの椅子。すぐさま俺はベットに飛び込んだ。


「疲れた……人の死んだところを見ているけれど余裕なこの感じ。まあ、血が流れたりすることがないってのが救い……かな」


 だんだん瞼が重くなっていく。少しづつ意識が薄れて俺は眠ってしまった。


 *


 時刻は午前7時。夜から朝になるまで一瞬だった。さっき目を閉じて眠った感覚なのに。ゲームのシステムが脳に直接情報を送っているためそこまで休めれていないため疲れも抜けたようなそうでないようなという感じ。

 ベットから体を起こし、部屋から出ようとドアノブに触れようとした瞬間、トントン、とノック音がした。


「起きてる?サクト君」


 俺の名前を君付けで言われて少し驚いたが「いるよ」と言いドアを開ける。


「どうした?」


「少し早くしてもらいたくて!!」


 そう言いながらユイは腕をつかんで走り始めた。宿屋を出て少しすると中央広場でデュエルマッチが始まろうとしているところだった。人が多く集まりざわついている。上に表示されていたプレイヤー名は1人はあの最強と呼ばれているコニア、もう1人はアイルだった。


「おいおい……馬鹿かあいつ。ユイ、なんでこうなったんだ?」


「それが……サクト君のことを知っている人はいないかってことを言っていてアイルさんが知っているよって入ってそこから……」


 何が起きたのかすぐに勘ずく。


「そこから言い争った」


 ユイがうなずく。


 本当に馬鹿なのか?初心者じゃなくなっただろ少しは……初心者なのはゲームだけじゃないってことかよ……


 デュエルマッチ開始まで残り5秒を切った。アイルは鞘から剣を出す。コニアは鞘ごと手に持ち構えた。


「鞘ごと!?」


 周りにいる人は「さすが!」という声が飛び交う。俺とユイは黙ってデュエルマッチを見ることにした。

 そしてデュエルマッチ開始の表示とともにピーと笛のような音が鳴り始まる。


「おりゃ!!」


 アイルはソードスキル『クレイ』を使う。するとクリエはから剣を取り、鞘で受け止めた。


 なんであいつは剣を使わないんだ?作戦……が、あるわけないか。楽しんでいるようにも見えるからな。


 クリエはほんの少し笑みを浮かばせている。俺はクリエが何を企んでいるのかを考えながらアイルとクリエ、周りの人を見ていると少しだけ違和感を感じた。アイルは別にだったがクリエの背中にCane of magicが装備されていること。周りの人の中に緑色の鞘を腰元に付けている男がいることだ。


「あの緑の鞘!!」


 すぐに俺は走ってその男に向かって行く。ユイも俺を追いかけるように走った。


「おい、お前誰だ」


 男の肩に手を置く。見たことない顔で間違えたのかと思ったが少し笑みを浮かべていた。鞘に手を伸ばし剣を抜こうとする素振りを見せる。


「まだ知るべきものではない。デュエルマッチでもするべきなのかな?」


「それで俺に何の良いことが?」


 そう聞くと首をかしげて少し考えた後、口を開いた。


「ないが、まあ少しはある。私が賭けるものだ」


 デュエルマッチは賭けるものがあったのか。でも最初がないって言うのが気になる……


「このデュエルが終わった後にしよう」


 男は分かったと言いアイルのデュエルを見る。デュエルの勝利条件は1/3までHPが減ること。黄色のゾーンにいくまで。

 クリエは鞘で戦っていたせいでアイルにあまりダメージを与えられてない。けれどアイルは鞘で戦っている相手にダメージを与えられていない状況。


「これで終わり」


 小声で言いながらソードスキル、『投剣』を使いアイルの肩に刺さり、HPバーが黄色のゾーンになり試合終了の音が響き渡った。周りは大盛り上がり。


「やっぱりスゲー!!」


「天才だ!!!」


 大盛り上がりしている中、俺はデュエルマッチの設定を始める。勝利条件は『1/3までHPを削ること』で、アイテムの使用は不可。他の人からの妨害も不可。そして申請を男に送る。男は迷わずOKボタンを押して剣を抜き、さっきまでデュエルマッチがされた場所に歩いて行く。俺と男の距離を10メートル離れて鞘から剣を抜く。


「おいおい!!サクトは何やってんだ!?」


「いや~緑色の鞘を持っている人が気になって話しかけていつの間にかこんな感じ」


 驚いた表情をしながらアイルは俺のほうを向いて叫ぶ。


「負ける……負けるなよ!?」


「分かってるよ」


 手を振って男を見た。周りはすぐにデュエルマッチが始まっていることと、緑色の鞘を持っていることに驚き、恐怖している人が見えた。


 残りの時間が10秒。

 緊張かあの男に対しての恐怖なのか手が震える。男は余裕な表情で構えている。


 なんであんなに余裕そうなんだ……?でも、俺の記憶が正しければ、あいつは。


 残り3秒、2秒、1秒。そして開始の笛が鳴った。その笛と同時に地面を蹴ってソードスキルの『クレイ』を使いながら男に近づく。するとシステムモーションと赤色のエフェクト光が2つの剣に発生し、クロスに剣が振り落とされる。


 な、なんだ!?このソードスキル!


 俺はすぐに気がつく。託の言っていた言葉が頭の中で響き渡った。


『最後、また良いニュースだ。剣を種類、システムモーションの種類の増加』


 ソードスキルが増えたって意味になるのか……二刀流剣技。これを最初に見つけた人になったかもな。でも何が増えたのか分からないんだよな~。仕方ない……


 左手に持っていたヒペリカムを上に投げた。それと同時に地面を蹴り、地面すれすれに突き進み、もう一度クレイを使う。男は剣を斜めに構えてガードした。衝撃が強かったのか、1メートルほど飛ばされたが、空中で1回転してうまく着地をする。


「何か作戦でもあるのかな?」


 男は余裕そうな顔で言う。集中している今の俺は何も感じなかった。ただただ勝ってあいつの正体を知ることだけを考えた。


「お前は誰なんだ?」


「教える理由がない」


 すぐに俺の質問に返答する。何度も作戦があるのか男は聞くがそのことだけは答えなかった。もしまたこいつが現れて戦いを申し込まれた時、その時がもし来たら一瞬だろうと俺がどんなソードスキルを出すのか、どういう動きをするのかを読まれて終わり、そう思っていたからだ。


「もう終わらせる」


 俺は後ろに下がり、ソードスキル、『シングルラング』。剣でプレイヤーを突く技。その構えをする。わざと力を溜め、隙を見せた。


「隙を見せるとは余裕だな。そちらが終わりだ」


 このゲームで出せないような速さ。


 ――――思った通りだったな


 男が目の前に来て首元めがけて剣を振る。


「私の勝ちだ」


「いや、俺の勝ちだ。お前は何も考えていない」


「な――――――!!!」


 ヒペリカムが男の肩に刺さった。HPバーが黄色のゾーン手前までいき、俺のシングルラングで腹部を刺した。


「ほら、言っただろ?」


「ふっ……」


 このデュエルマッチが面白そうだったらしく、男はわずかに口を開き笑みを浮かべる。そしてWinという表示が上に大きく出され、周りはまた盛り上がった。アイルとユイがこちらに来て「すごかった!」と言いながらほんの少し涙が流れる。

 俺が男が賭けたものを確認して、アイテムストレージに入れる。表示されたのは転移クリスタル1個のみ。

 不快に思っていると後ろから男の声がした。


「おめでとう。君は選ばれたのかもしれない」


 後ろを向くと、少しづつ歩く男が近づいてくる。


「どういうことだ?」


「君は二刀流剣技が使える。もともとこれは取り入れるものではなかった。しかし私は入れた」


 やっぱりこいつは…………


「入れたんだが少し不具合が起きてね。い君たちの記憶の一部をシャットアウトさせてね。間違えて記憶を取り除いてしまったんだ。私に会ったことを」


 ――――?こいつは……こいつは……誰だ?こいつは決して許されないようなことを、したはず。なのに、思い出せない。


 頭を抱え、必死に覚えている記憶を漁る。けれど、なかった。この男の名前、したことを。


「私は殺人ギルドのリーダー。『HYU』。2階層にある地下ダンジョンを拠点としている。その場所に来て殺人を犯したものを殺すことだ」


 HYUと名乗る男はどこかへ歩いて行く。俺やアイル、ユイたちは何も言わず黙ってHYUの背中を見た。


 待てよ……状況が整理できていない。HYUが言っていたのは、あの男の記憶が俺たち、いや、全プレイヤーからなくなった。そして新たにHYUと名乗ったってことだよな。デュエルマッチを申し込んだ理由。その理由があいつを前に知ったから。


「アイルやユイは覚えているか?」


 2人とも横に首を振る。


 そもそもなんでゲームの中にずっといるんだ…………お、思い出した。ログアウトができず、死んだら自分も死ぬ。


 周りも同様に何をしていたのかが分からなくなっていた。ログアウトボタンを何度も押し、死んでしまう人まで見える。


「まずい!!みんな!やめろ!!ここで死んだら現実世界の自分の体、魂も死ぬ!!やめろ―――!!」


 叫んで叫んで叫び、止めようとするが、みんな「ここはただのゲーム、死んだら現実に戻れる」そう思ってどんどん自害していく。


「アイル!!ユイ!!」


 アイルとユイは我に戻ってゆっくりうなずいた。


 アイルとユイは大丈夫そうだ……エミは!!


 すぐに雑貨店、武器屋、装備店、それぞれのギースに走って向かう。武器屋にエミの姿があった。


「あ、いらっしゃいませ!!」


 俺たちは驚いた表情でエミを見る。


 あ、あれ――――?エミは無事……なのか?ここにいる意味っていうのがある……のかな。


「どうしたんですか?そんな驚いて!武器、何を買いに来たんですか?それとも武器のグレードアップですかね?」


「いや、なんともない……か?」


 俺の言っていることに不思議がりながらもうなずく。少し申し訳なかったと思い、雑貨店のほうのギースに行き、何個か買っていった。

 外に出ると、HYUの言葉が頭の中で流れる。


『2階層にある地下ダンジョンを拠点としている。その場所に来て殺人を犯したものを殺すことだ』


「あのさ、2人とも、覚悟はあるか?」


 男の話を聞いていた2人は何のことかをすぐ気づき、うなずいた。


「メンバーは、どうするんだよ」


「それは……」


 そのことまで考えていなかった俺は首をかしげて考え込む。すると後ろのドアからエミが出てきて大声で言った。


「4人!!!」


「馬鹿か!!!」


 後ろを向いて大声で返す。予想外の返答が来たことに驚き、言葉を失っている。アイルは「まあいいじゃないか」と言わんばかりの表情で俺の肩に手を置く。


「はぁ……死ぬぞ……4人対50人は……」


 アイルとエミが黙ったときにユイが口を開いた。


「私を誰だと思っているの?」


「「あ!!!!!!!!!!副リーダー!!!」」


 大声で叫ぶアイルとエミ。その声で周りの人がユイの存在に気づき、続々と集まってくる。


「行くぞ~」


 両手を使ってアイルたちの腕を握り、人ごみをかき分けながら一旦ゆっくり話ができる場所を頭の中で考えながら引きずって行った。そして考えた結果、NPCの導入により新しくつくられた飲食店へ向かうことにに。


「その前に……アイル!!エミ!!少しは場を考えろ!」


「「すみません……」」


 2人を説教をしていると、周りにいる人やユイが、半泣きのアイルとエミの姿を見て笑いながら見ていた。


「分かったか!?」


「「はい……もうしません……」」


「よし、じゃあ行くか」


「ふふっ!おもしろい!サクト君が怒る姿を初めて見たけど、こんなところで、サクト君のほうが場を考えてないんじゃない?」


 俺はユイにそう言われた瞬間周りを見渡す。全員俺を見て笑っている。俺は何も考えれなくなり顔が物凄く熱く赤くなった。


「お、おい!!行くぞ!?」


 アイルたちは笑いながらも返事をして、飲食店に向かった。

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