第6話 ボス攻略へ
俺は森の中に再び入っていく。白い霧は森の中で作動するシステムになっているらしい。土は柔らかく、踏むと足跡ができる。さっき俺とメイが来ていたことが土を見るとすぐに分かる。
森の中にイベント開始システムが組み込まれている木が存在しているという噂があった。もともと俺はレアモンスターの骨目的だったのだが、メイからその話を聞いて目的変更したのだ。今のレベルだったら余裕らしい。
「イベント開始システムか……どんなイベントが発生するんだろう。条件付きでシステムが作動するわけではなさそうだから、えーっと」
一旦立ち止まりメインメニューを開く。アイテムストレージのボタンを押して、まだ完成されていないアイテムであり、もう完成しない武器、『Cane of magic』を選択した。
「そうえばこれをオブジェクト化したことなかったな……魔法を使うことはできないけれど何かに役立つ時が来るかもしれないし」
オブジェクト化されたCane of magicは胸元くらいまでの高さがある木の枝。とてもではないけど魔法の杖とは思えない。無理やりソードスキルを使ってみるがシステムモーションが無く、わけのわからないところを振ってしまう。
「これは魔法を使う用の武器だったし、システムモーションがないのは当たり前、か」
またアイテムストレージにCane of magicを入れた。
俺はまた森の中を歩き始める。霧が視界の中いっぱいに広がっていて、後ろ、前だとしても気づかず殺されてしまうくらいの濃い霧。
「迷ってしまいそうだ……気を付けないと……」
ピコン、ピコンと通知音が鳴る。慌ててメインメニューを開くとメッセージが送られてきたという通知が入っていた。すぐに確認すると、送ってきたプレイヤーはアイル。
『すぐにジャイルの中央広場に来てくれ!!!頼む!!!』
そう書かれてあった。
何かあったのかな……今からイベントの木のところへ!って思っていたところなんだけど……しょうがない……うん。
アイテムストレージを下にスクロールして転移クリスタルを押し、オブジェクト化し手に持つ。
「ジャイル、中央広場!」
クリスタルを強く握り、割りながら言った。すると俺は白い光に包まれ姿を消す。これが転移。視界が一瞬だけ真っ白になった後、中央広場の景色が広がる。
「アイルはどこにいるんだ?」
周りを見渡しアイルを探した。やけにプレイヤーが武器など万全にした状態で待機しているが、そんなこと気にせず広場の周りを歩く。
「お~い!!サクト~!?こっちだ~!!」
手を上にあげて振りながらこちらに向かって叫ぶ男の声が聞こえる。聞いたことのある声。俺は声の下方向を向くとアイルの姿が。俺は近づき、両腕を組む。
「何の用だ?アイル」
慌てた表情で俺の後ろ側を指さす。俺はその方向を向くとヒルガオが重そうな鎧をして歩いてきて来ている。
「みなさん。また呼び出して申し訳ない。2階層の最後のクエストを攻略しようと決まり、私と少人数では無理だと考えこのように急遽呼び出してしまった」
めちゃくちゃだろ。1日後ならまだ分かるけどなんで決めた瞬間呼び出すことをするんだ?リーダーがこんな奴だったら、ギルドとして良くない。
ヒルガオは話を続ける。
「アイテムは支給する。これくらいで良いかな?」
ギルドメンバー全員の目の前にアイテムリストが表示された。支給されたものは転移クリスタル3個、治癒ポーション5個、金貨が100枚。ここに集まっているメンバーは合計で1万人はいる、これをあと1万。あれほど持っていることに俺は不思議に思った。
「なあ、アイル。支給されたものが豪華すぎないと思わないか?」
「そうなんだよ!こんなもの、簡単に集めれるはずがねえよ」
アイルは首をかしげて考えていると俺の肩に誰かがトントンと叩く。
「なんだ――――?お前は!」
後ろを振り向くとフードをかぶった副リーダーの姿が。アイルもすぐに気づいて驚いた表情をしている。
「あなたたちに用があって、いいですか?」
戸惑いながらも「分かった」と言い副リーダーについて行った。人通りの少ない場所。まだ外は明るいはずだが連れて行かれた場所は少し暗い。
「すみません、突然ここに連れてきてしまい」
そう言いながらフードを取る。
「いや、別にいいんだけど――――?お前!」
フードを取った副リーダーの顔。2か月前に見たことのある顔だった。金髪の長い髪。
「あの男に絡まれていたお前が副リーダーになったのか!!スゲーな!!」
「そんな言い方をしないでください!あれはもう過去のことですから!!」
殺気混じりでこちらをにらんでくる。そのにらみだけで押しつぶされそうな感覚になるほど。アイルは何が今起きているのか全く理解できていない様子だった。とりあえず俺は前に会ったということを話してアイルを一旦この状況を理解させた。
「まあ、状況は分かったけどよ。よく覚えていたな、どっちも。1回しか会ってないんだろ?」
アイルがそう言うと副リーダーは顔を赤くする。
「いや、当然じゃないのか?」
俺が当然な顔でそう言うと2人とも驚いた表情でこちらを見た。アイルは「そんなわけないだろ~!」と言いながら背中を叩く。
「私はちゃんとギルドの副リーダーとして覚えたからですよ!?」
何かを隠しているかのかぎこちない。一応そのことを気にせず話を続けてもらうことにした。
「はい、なぜあなたたちを呼んだのかですけど、リーダーのヒルガオについてです。何かを企んでいる、そんな気がするんですよ」
確かに。あのアイテムの配布の多さ。無理やりに進めていて、何かに焦っているような。あの様子だったら企んでいてもおかしくない。でもな~、リーダーとして配布をしっかりし、早くみんなを現実世界に戻してあげようと思って焦っている、だったらまた変わってくる。
「そうと考えれるけど、見方によっては見えない。どうしてそう考えれるんだ?」
「私が副リーダーとして活動している最中のこと。ヒルガオが私じゃなくて他の人に指示を出しているところを見たんです。その後私が話に入ろうとした瞬間、指示を聞いていた人がクリスタルを使って転移した」
「おかしいな、それ」
アイルがそう言い、俺はうなずく。
わざわざ転移クリスタルを使わなくてもいいはず。どうしてでも話を聞かれたくないって感じか。ますますあいつが何かを企んでいるように思えてきたな。
「分かったけど、なんで俺たちに……」
すると少しだけ頬を赤くする。
「サクトさんだったら協力してくれるかなって思ったの!!」
急に敬語をやめて大声で言った。最初、敬語をやめたことに戸惑っていたが、話の内容がどんなものだったのかがだんだんわかってきた瞬間、俺も頬を少し赤くしながら驚いた表情に変わる。
「え、えーっと……よーし!それじゃあヒルガオのところへ戻ろう!!」
話を変えて中央広場を目指し歩き始めた。それを見たアイルと彼女は走って追いかけてくる。
「待って!!サクトさん!!」
「……あ、あーそういえば副リーダーさんのお名前は……」
なぜか急に敬語に変わってしまう。焦っているとき勝手に敬語になってしまうのは人生で初めてのことだった。
人生初めてのことがしょうもないな~。VRMMORPGをしている中で1回もないことが今起きるなんて、珍しい……たぶん。
「私の名前はユイです。まだ言ってなかったでしたっけ?」
首をかしげながら言う。俺はうなずき、中央広場に戻った。
「これで以上だ。質問はないか?」
ヒルガオが言うと俺が手を上げる。
「なぜ急にクエストをしようと決めたんだ?」
そう言うと少し悩んだ表情をした後、口を開く。
「副リーダーとの話をした結果がこれだ。それにこのKSOにとらわれて2か月も経過。一刻も早くクリアし出ること。それだけのために動く。それが攻略ギルドの役目」
役目――――か。
「ありがとう。もういい、質問はない」
俺は口を閉じ、ヒルガオの話を聞く。
「では、これからクエストの攻略を始める。転移クリスタルを使い、2階層の案内所まで一斉に移動させるぞ」
ギルドメンバーは剣を上にあげて「おー!」と叫んだ。みんな、それぞれの気持ちを抱えて。
ヒルガオが転移クリスタルを壊した瞬間、全員白い光に包まれ姿を消した。
転移するともうヒルガオがクエストのPLAYと書かれたボタンを押して準備をしていた。視界の右下に、【クエスト開始まで残り30秒】と表示される。
2階層の案内所はかなり広く、1万人が普通に入れるほど。俺は今回するクエスト内容を確認した。表示されているのはボス名、【スカル】。レベルは20。報酬は不明。なぜならPLAYのボタンを押す前にしか確認ができないからだ。
残り20秒。
息を整え、ユイとアイルとヒルガオについての話を少しだけする。
残り5秒。
鞘から剣を2つ取り出す。二刀流がこのゲームでは不利のことを他のギルドメンバーは知っていた。そのせいで俺を弱いやつ、初心者だと言ってくるやつらがいる。今もこそこそとその話が話題になっているよう。
残り0秒。
表示されていた数字が0になった瞬間また転移が始まった。1人ずつ白い光に包まれ姿を消していく。
ボス攻略。もともとは1階層に1つのクエストだったもの。難関クエストがこれを合わせてあと980はある。
――――絶対に帰る
それだけを考え、俺は転移した。
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