第5話 新たな一歩
≪2500年4月29日≫
託から現実世界を救うゲームを勝手に始まって、2か月ほど。今生き残っている人数は5万人。
最初は攻略だ!とみんな協力し、ほとんどのプレイヤーがクエストを攻略していた。けれど1か月経った時、いろんな事件が。
プレイヤー、8万人が入っている『トラムポッツ』という俺も入っている巨大な攻略ギルドができ、1階層のクエストをクリアすることに成功。しかしそこからだ。俺が一旦休養をもらいギルドを抜けている時に、仲間割れが発生。1人殺した。そこからどんどん仲間割れ、人を殺したものがギルドになり、殺人ギルドが作られた。名前は『アシナト』。これが作られたせいで攻略する者の減少。物凄い事件が起こってしまった。
「みんな急遽集めて申し訳ない」
トラムポッツのリーダー、ヒルガオ。黒髪で肩に当たるくらいの長さ。俺や他のプレイヤー1万人が1階層の中央広場に会議をするために集められている。
「これからクエストクリア状況の確認をする。今の状況は」
ヒルガオの隣にいる副リーダーと思われる女。赤いフードをかぶっていて顔は見えないし名前も知らない。そもそも顔を見たことがない。
「今の状況は1階層のクエストをすべてクリア。2階層のクエストは19個クリアしました。あと1個をしようと思います」
噂によると小ギルドが2階層の最後のクエストを攻略しに行って5秒とかからず死んでしまった……という。
「良いと思うが人数はどれくらいで行くんだ?」
俺がそう問うとヒルガオが答える。
「人数は私と隣にいるこの人とここにいる人たちと考えているが?」
合計約1万人か……勝てないわけではない。準備を万全にしておけば余裕だろう。少し剣を振っておくくらいはしておこうかな。
「他に質問はないか?」
誰も質問はなく、ちょっとした会議が終わった。中央広場を離れて武器屋ギースに寄ることにした。
「よっす。来たぞ、エミ」
「お~!サクトさんじゃないですか~!いらっしゃいませ!」
店は相変わらず狭いが店の武器は増えて数十種類ある。雑貨店のほうも百種類のアイテムが並ぶようになった有名店になりつつある場所。
「大繁盛ではないな!」
「うるさいですよ!?で?今日はどうされました?」
「えっとな、忘れていると思うが2か月前になるのかな……?ドアの件だけど」
金貨を入れた袋をカウンターに出す。
「いえいえ!あれはもういいですよ。サクトさんが剣を買ったおかげで入ってきた金貨で払えましたので!」
俺が払ったのは金貨94枚。ドアと言っても90枚近くは払わないと修復させてくれない。さすがに払っておかないと気が済まない。
「いいから。金貨は180枚払う。確認しておいてくれ。じゃあまたな」
袋をカウンターの上に置いてさっさと行こうとした。すると「待って!」と大きな声で俺を引き止める。
「こんな大金いらないですよ!!!私はなかなか繁盛してきましたし、稼げています!あのことは本当に気にしてません!なので――――」
袋を手に取って俺に持たせようとするが袋を強く押し返す。
「大丈夫だって。こう見えて俺もすごい稼いだんだぞ?金貨はそれ含めないで500枚。レベルは73レベル。困ることはないからな」
「73……レベル――――?現時点最高レベルのプレイヤーは60レベルだったはずですよね!?」
このレベルはまだ公表していない。俺がこんなに強く、レベルが高いということを知られたら殺人ギルドが一斉に動き始める。殺人ギルドのプレイヤー数は50人程度。いくらレベルが高かったとしても50対1は無理に等しい。
「このことを言うのはやめてくれよ?大騒ぎになるからさ」
唾をごくりと飲んで小さくうなずく。その後すぐにドアを開けて武器屋を出た。
「じゃあな」
「はーい」
俺はモンスターの狩りをしようと草原ミルキートの奥にある森、『スリン』に向かう。森の中に入ると霧が出てきて周りがよく見えなくなる。ここに来た目的はレアモンスター、『ユークリフ』の骨をとるため。
*
「はぁはぁ――――」
1人の茶色で長い髪の少し小柄な女の子が森の中にいた。メイは走って走ってモンスターから逃げて行く。モンスターは1階層最強にしてレアモンスター、『ユークリフ』。うさぎの姿だけれど2足歩行。目は赤く耳は後ろに垂れ下がっている。
「誰か、誰か助けて……きゃっ!」
木の根っこが少し地面から飛び出していてそこにつまづいてこけてしまう。ユークリフが1体こちらにゆっくり向かって来る。メイは手を使って後ろに下がっていくが背中が木に当たってもう逃げられなくなった。
「もう……もう、ダメなの……?」
メイの右側の頬を伝う1筋の涙。もう終わりだと目を閉じた。
メイは1人で攻略し続けるソロプレイヤー。珍しい人だ。KSOはソロプレイヤーの攻略の進み具合は本当にごくわずか。1階層の森で採れる珍しい果物を売り、そのお金で生活をしている、それがメイ。1日に金貨10枚もらえるがやはり厳しいのかそう生活するのが普通となっている。
スリンにユークリフがいることは知らないわけではなかった。けれど――――
ユークリフが持っている爪でメイを突き刺そうとする。
「キィー――!!!!」
襲い掛かった瞬間、1本の細く削られた木の枝が突き刺さる。ソードスキル『投剣(とうけん)』だ。
「間に合ったか。良かった。大丈夫か?」
目を開けるとユークリフはいない。いたのは1人の男の人だった。治癒ポーションをメイに渡す。
「これでいいだろうけど。一緒に森から出ようか、近くにも強いモンスターはいるからな。ほら」
手を差し伸べる。メイは手を持ち立ち上がった。
「私はソロプレイヤーですので。1人で森を出ます。助けていただきありがとうございます」
何を言っているんだという表情を浮かべながら「早く行くぞ」と声をかける。メイは戸惑いながらもついていくことにした。
「ここから1分すればすぐ着くから」
「はい、ありがとうございます!」
暗かった表情が明るい表情、笑顔へと変わっていく。前までこんな笑顔になったことない、そう思いながら少しの時間歩いた。
「すみません、あなたの名前は?」
「俺か?俺の名前はサクト。トラムポッツという攻略ギルドメンバーだ」
「私の名前はメイ。ソロプレイヤーです。正直死んでも……」
「ソロプレイヤーだって!?」
森全体に響き渡るくらいの声で言う。物凄い驚いているサクト。ソロプレイヤーが生きている確率はほとんどないと言われているから。
「こんな森に来て、おまけにソロプレイヤー、死んでもいいって言う。やめとけよ!死んだら……死んだら、悲しむ人が絶対にいるんだ!!」
「――――――――!」
真剣な表情でサクトは話を続ける。
「ずっと1人の男がいてさ。そいつ、俺の同級生で友達だったんだけど、そいつ、自殺したんだ」
「え?」
サクトは少し表情を暗くさせる。
「VRMMORPGをソロでやっている奴。俺もそうだったんだけどな。ある日、ソロをずっとしていたあいつはチームを組んだんだ。そいつはスゲー喜んでてさ。でも……優斗(ゆうと)が組んでいたチームメンバーだけ死んだ」
優斗という人が一瞬だれかと思ったがすぐに理解し、話を聞く。
「その日からずっと自分を責めていた。何もかも自分のせいだってね。そして、自殺。学校では謎の死で終わっているけど。そしたら急に女子が俺に話しかけてきたんだ。名前は聞いてないけど。あのぼっちだった優斗のことが、『好き』だったらしい。すごく泣いていたよ。俺に真実を話してほしい、と言いながらね」
「そうなんですね」
下を向きながら話していたサクトが前を向いた後、こちらを向いて話し始めた。
「だから、君にもいるってこと。だから、簡単に諦めないでくれ。生きる理由を見つけて精いっぱい生きるんだ」
メイに少し涙が浮かぶ。頭の中で思い浮かんだのはメイのお母さんとお父さん。悲しむ姿を思い浮かべるとより一層涙があふれそうになっていく。
「そろそろ着くぞ」
サクトは前に指をさす。その方向から光が差し込んでいた。奥に見えた木があった。楓。もみじとも言う木だ。
「今の季節は春なのにどうして……」
メイはそう言いながらも光に照らされたもみじの葉に心を奪われる。
「もしかしたら何かのメッセージかもな。そんな偶然はないか」
苦笑いしながらそう答えて、歩き始めた。それを追いかけるようにメイは歩いて行く。森を抜けるとミルキート草原。置くのはジャイルが見える。
「俺はまた森に入る、君はしっかり休んでいろよ」
「さっき、ソロプレイヤーはやめろって……」
「まあいいからさ。じゃあ、またな」
手を振った後森の中にまた入っていく。サクトの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。そして心の中でささやき始める。
何か、私に何かを教えてくれた。生きる意味かもしれない。このこと、忘れない。絶対に生き延びてあの人、サクトさんにまた会う。頑張って、会いに行きたい。
心に手をあてた後、しっかり前を向いて始まりの町ジャイルで自分のチームメンバー、ギルドを作ろうと、そして、戦うため、生きるため、現実のサクトに会うために一歩踏み出した。
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