第17話 邪悪な力
オヤジたちは時計台のある図書館まで、ルドラを追いかけてきたが、見失ってしまった。
ふたりは再び、あの場所にルドラが現れるはずと言う事で、意見が一致した。
図書館裏の池のほとりにやって来た。
黙ったまま、どちらから言い出すともなく、ベンチに腰を下ろした。
『この穏やかな気持ちは、何だろう?』
不思議な感覚。
時間が止まっているかに感じられた。
オバケ君は静かに、ただ前を見つめて座っていた。
『彼は今、何を思うのか?』
オヤジはオバケ君が、お化けでいる事への心境を聞いてみたくなった。
彼の静かなや横顔に声を掛けた。
『オバケ君。あの二人の事、まだ、許せへんか?』
一瞬、オバケ君の体が反応した。
彼の横顔から、今まさに激しく揺れる心の葛藤が見て取れた。
『彼らは、もう関係ないんだ。ただ、自分が許せないだけなんだ』
自分を嘲笑うかのように答えた。
『そうかあ』
オヤジは、それ以上聞くのをやめた。
その後、しばらく気まずい空気が流れた。
突然、オバケ君が口を開いた。
『夏海さん、友達できた?』
『相変わらず、一人みたいや。つまらなさそうに、通ってるわ』
オヤジは深い溜息を着いた。
『あいつもまだ、トラウマから抜け出せへんのやろうなあ』
オバケ君は後悔した。
オヤジに一番聞いてはいけない質問をしてしまった事に。
オヤジの横顔を見て、オバケ君は慌てて弁解まがいの言葉を吐いた。
『大丈夫だよ!きっと、卒業するまでにはできるよ』
『うん、サンキュー!』
心配して、気を使ってくれているオバケ君の言葉が嬉しかった。
その時、二人の視線が、ある人物を捉えた。
ルドラ・マリックだ。
予想通り、ルドラが倉庫の前に戻って来た。
『当たりだ!』
今度こそ、気付かれないように、ルドラを尾行した。
ルドラは警戒心を強め、周囲を見渡しながら、鉄扉を両手で押さえ、やや、うつ向いた姿勢で鍵穴を睨み付けた。
次に、両手を扉から放し、今度は上下左右に両手を何度も大きく伸ばしたり、体の中心で手を合わせたりしながら、再び大きく時計回りに円を描き始めた。
次の瞬間、カシャッという乾いた音が響いた。
ルドラはそっと扉を押し開けた。
まるで!手品を見ているようだった。
一切どこにも手を触れず、彼は倉庫のカギを開けたのである。
ルドラが倉庫の中に姿を消すと、静かに扉が内側から閉まった。
二人は足音に注意しながら、すばやく倉庫の前に近付いた。
だが、用心深いルドラは、オヤジたちの存在に気付き、慌てて飛び出してきたのだ。
ちょうど、オヤジたちが扉に忍び寄ったと同時だった。
オヤジは扉が勢いよく開いたので、反動で
強くはね飛ばされ、地面に尻餅をついてしまった。
『あ痛ったたあ!』
『瑠璃さん!』
幸い怪我もなく、すばやく体勢を立て直したオヤジは、ルドラと目が合った。
彼も身動きもせず、オヤジを見つめ返した。
何かただならぬ雰囲気が漂い始めた。
その時、彼の顔がみるみる変化していくのがわかった。
額の中央がバックリと裂け、大きな第三の目が現れたのだ。
第三の目に睨まれたオヤジは、急に全身の力が抜け、自由が奪われてしまった。
オヤジの周りで、何か特殊な力に支配されている感じがした。
段々、意識が朦朧として、叫ぶ事さえできなくなった。
『倉庫のものは絶対、持って行かさへんで!』
ルドラの姿が、どんどんぼやけていく。
『あかん!』
『瑠璃さあーん!』
オバケ君の叫び声が、オヤジの鼓膜を貫通した。
おかげで、オヤジは正気を取り戻す事ができた。
『ルドラ・マリック!』
オバケ君に自分に名を呼ばれて、明らかに動揺している様子だった。
悔しそうな顔で、一瞬躊躇した後、彼は何も取らずに倉庫から逃げ出していった。
オヤジはルドラが走り去ったのを確認すると、へなへなと座り込んでしまった。
オバケ君はルドラの後ろ姿を、悔しそうに見詰めていた。
『瑠璃さん、大丈夫!』
オバケ君はオヤジの元へ駆け寄ってきた。
『あいつは、人間やない。額にもうひとつ目があった』と言いながら、自分の額に手をしきりに当てていた。
オヤジは興奮していた。
『僕も見た。危険を秘めた邪悪な目だった』
『あの目を、見たらあかん。体の自由が奪われる』
ルドラを取り逃がした二人は、倉庫脇に置かれた長椅子に腰掛けた。
インドの神話に登場するシヴァ神を思わせる風貌だった。
それはあたかも、第三の目によって、全てのものを見通し、万物を意のままに操る事のできる恐ろしい魔力を持っていた。
そして、今その偉大な力によって、悪行が成し遂げられようとしていたのだ。
オバケ君は、その事に感付いていた。
オヤジは腕時計を見た。
針は夜中の二時を指していた。
すでに、一時間が経過していた。
『さあ、第二ラウンドの開始や』
オヤジは力強く膝を叩くと、勢い良く立ち上がった。
『こうなったら、建物の隅から隅まで、探そうやないか』
時間が勝負だった。
ルドラが悪事に手を染める前に止めなくては。
この期に及んで、オバケ君もいつの間にか、自分の行動に自信を持ち始めたのか、顔付きが初めてであった頃とは、全然違って見えた。
夜気が、やけに冷たく感じた。
時折、突風めいた風に煽られながら、真夜中のキャンパスに繰り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます