第48話 あれから…~永遠の愛ver~





「こっちこっち!!」









「あ…ご無沙汰しています。すいません、急に…」




「いや…驚いたよ~元気そうで安心したよ。今日はさ、休みだったからちょうどよかったよ。」




「え…休みなのに乗っていいんですか?」




「いいんだよ、いいんだよ。さ、乗って。」




「あ…こんにちは。」




「え…って二人で今日来たのか!?」




「はい。」




「先生…じゃなかった、先日は健さんがお世話になりました。あと私も乗せていただいて…」




「…じゃあ二人は…あのあと…」




「はい、あのあとも色々ありましたけどおかげさまでこうなりました。」




二人で左手にはめている指輪をタクシーの運転手にみせる。




「そっか…そっか~よかった。あれからどうなったんだろうってずっと思っていたんだよ。」




「俺…運転手さんのタクシーにのって本当によかったって思っているんです。背中も押してもらったし、見ず知らずに俺に優しくしてくれて一言お礼が言いたくてきたんです。」




二人はあのとき乗ったタクシーの運転手にお礼が言いたくて北海道にやってきたのだ。




「いや、実はさ、俺もお礼が言いたかったんだ。」





「お礼ですか?」




「まぁゆっくり話そう。北海道はいつまでいるんだ?」




「実は今日の最終便で帰るんです。奈々も俺も仕事があるので…」




「今日!?ってあと数時間じゃないか~観光しにきたんじゃないのか?」




「今日はこれを書いてもらいたくて会いに来たんです。」




運転手に広げて見せた紙にはすでに奈々と先生の署名がされている婚姻届だ




「え?これに?俺でいいのか?」




「無理にとは言わないです。でもあのときスパイクを貸してくれたから、奈々を守れたって思っています。」




「私も感謝しているんです。見ず知らずの健さんに靴を貸してくれて…それにタクシーに乗ったとき色々あってすごく落ち込んでいました。だけど先生の思いが聞けて今日まで頑張ってこれました。」




「…わかった。サインするから、じゃあ家にいっていいか?近いから。」




「「ありがとうございます。」」




「俺も君たちに書いてもらいたかったな。この証人の欄に。」




「え…?結婚されたんですか?」




以前はなかったはずの指輪が左手の薬指にはまっている。




「まぁな…もう若くないおっちゃんだけどな。あ、ここだここ。おーい!客連れてきたぞ!」




回覧板を手に立っている女性に運転手が声をかける















「先生…!」













「え!?今先生って…」




奈々は目を丸くして驚きを隠せない。




「もう先生はだいぶ前に引退しているんだけどな。」




「教師をされていたんですか?」




「ハハ……そうなんだ。親の介護のために30年やってきた教師を辞めたんだ。嫁は俺の元教え子で同窓会で再会したんだ。」




「元教え子…」




「俺のことずっと好きだったって言ってきてくれて…だけど俺とあいつは20歳離れているんだ。なかなか踏み切れなかったよ、正直。だけどさ、君たちも俺たちと同じ関係なんだろ?奈々さんが先生ってつぶやいたのを聞いてさ、胸が締め付けられたよ。」





「あの時は偉そうなことを言って悪かったな。」




「え?」




『誰だって自分に自信はない。だけどそんな自分を慕って尊敬してくれる人間がいるって素晴らしいことだよ。だって世の中にはたくさんの人がいるんだから。その中からたった一人、君というその一人を見つけてくれたんだ。運命の人を――』




「いえ、あの言葉があったから…俺は奈々のことを信じて待ってみようと思ったんです。」




「あの言葉はさ…俺のことなんだよ。」




笑顔で駆け寄ってくるお嫁さんに優しい笑顔を向けている運転手さんが可愛い。




「年齢もこんなに離れているおっさんを…若い子が好きだと言ってくれて。アイツに申し訳ないって思ってた。だけど本当は俺が自分に自信がなかったんだ。アイツのことを思って振ったんだって自分に言い聞かせていた。」




「こんにちは。」




ニコニコと優しい笑顔で話かけてくるお嫁さんの笑顔は、運転手さんの笑顔と似ている。




二人には二人の色んな辛い思いをしたりしたのだろうけど…二人の幸せそうな笑顔を見るとこっちまで幸せな気持ちが伝わってきた。




「前言っていた人たちが来てくれたんだ。」




「前言っていた人って…ボールペンの?」




運転手さんが首を縦にふった瞬間奥さんが奈々の両手を包み込むように握ってきた。




「ありがとう…本当にありがとう!あなたたちのおかげで私たちの今があるの。本当にありがとう!!」




「いえいえ、そんな…」




優しい笑顔は変わらないけど、目尻から涙がキラリと光ってる。




「私ね、三回振られたんだ。」




「え?」




家にあがってから自然と女性チームは台所でお茶を、男性チームは客間でお酒を飲んでいた。




「一回目は高校のとき、卒業式のとき告白したけどまだ今から色んな人と出会うからって…二度目は同窓会のときでまだ親御さんの介護が大変だったみたいで…三度目はあなたたちが北海道にくる数日前。」




奥さんは薬指にはめている指輪を触りながら過去の辛い経験を思い出しながらも今の幸せをかみ締めている感じだ




「たまたまね、タクシーに乗ったの。偶然会ったら運命かもって思っちゃって…それで三度目の正直だ!って思って告白したら駄目だった。って奈々ちゃん、大丈夫!?」




「すいません…なんか自分のことを思い出したりして…」




奥さんは奈々にティッシュを渡しながらまた話を始めた




「どうして駄目なんですかって聞いたら…何も理由がなかった。三度目のときこそ、諦める理由がほしかったの。もう私も年齢も年齢だから…だからそのままタクシーを飛び降りるように降りちゃって…後悔していた。」




「…でもそれからどうやってまた再会を?」




「三度目の告白のときはね、先生本当に迷っていたみたい。いざ断る理由がなくなった時、自分の気持ちを探り始めたら怖くなったって…自分も年を重ねてしまったし…そんな時奈々ちゃんやご主人をタクシーに乗せたのね。」




「私たち?」




「ご主人と話していたら自分に自信がないせいを私のせいにしていたって気づいて…奈々ちゃんと話をしていたら私がどれだけ泣いてすごしていたのだろうって思ったみたいで…気づいたら私の家の前で待っていたって。」





「奈々ちゃんと先生の恋のおかげで私の恋も実ったよ。ありがとう!」




自分はただ先生が好きで




先生を忘れられなくて




たくさんの人傷つけてしまったから




奥さんのように誰かを幸せにできるなんてーー




この恋は間違ってなかったのかなって少しは心が軽くなった




「ふふ、奈々ちゃんに会えてこの子も喜んでる。蹴ってきているよ。」




「え?あ…赤ちゃんですか?」




「今6カ月なの。まだあんまりお腹出てないんだけどね。」




「触ってみる?」




「いいんですか??」




「うん、ここ触ってみて。奈々ちゃんだよーパパとママのキューピットさんだよ!」




「あ!すごい…ポコって…」




「奈々ちゃんに感謝してるんだね。奈々ちゃんに会わなかったら産まれてこないもの。人と人の出会いの運命って命まで関わることかと思うとすごいよね。」




「…そうですね。これからも1日1日を大事にしたいです。」




「奈々…サインしてもらったし、行こうか。」




「はい。お茶ありがとうございました。お身体お大事にしてください。」




「ありがとう。奈々ちゃんも元気で。また遊びにきてね。」




「本当にもう帰っちゃうんだな…」




「空港まで送ってもらってありがとうございます。」




「今日は休みだからいいんだよ。それに俺が送りたかったわけだし。」




「慌ただしくてすいませんでした。今度はゆっくり遊びにきます。」




「サインありがとうございました。私赤ちゃん楽しみにしてます。」




「ありがとう。今度は別の報告を俺は待っているよ。じゃあな!」




「ありがとうございました!お元気で!」




2人で深々と頭を下げて運転手さんに別れを告げた。




「帰ろうか?」




「うん…」




「どうした?」




「1人は寂しくなかったのに、先生とこうやって会えて別れるのはやっぱり少し寂しいかな…」




「奈々…」




「できるだけ会いに来てくれる?」





「うん、もちろん。休みの日は数時間でも会いに行くよ。」




「うん…わかった。もう大丈夫!」




「じゃあ手続きしに行こうか。」




「先生、ちょっとお手洗い行ってきます。」




「どうぞ笑」




「何で笑うんですか~」




「授業中みたいだったから笑」




「ふふ、私もなかなか先生が抜けないですね。」




健さんて呼んだりもするけど




やっぱり先生がいちばんしっくりきてしまっていて




今の私にはこれから先も先生って呼ぶのかなってこの時思っていた




「キャッ…」




「「ごめんなさい。」」




トイレで手を洗っていると男女の双子が後ろからぶつかってきた。




2人とも透き通るような白い肌に栗色の髪の毛に目は大きくてモデルのような双子




「大丈夫だよ。」




ニコニコしながらハンカチで手を拭いていると2人はジッとみていた




「ん?どうしたの?」




「僕たちと同じだね?」




「うん、私達と同じだね?」




「同じって何??」




2人は同時にお腹を指差して、ニッコリと笑って何も言わなかった。




「え…お腹?」




「優奈!翔斗!お待たせ…あ、すいません、2人が何かご迷惑おかけしませんでしたか?」




「いえ、大丈夫です。」




「ママ!あのお姉ちゃんのお腹に僕たちと同じ赤ちゃんいる!」




「え!?赤ちゃん!?」




奈々公共の場ということを忘れて大声を出してしまった。




「私も見えるよ!」




「すみません、動揺させてしまって…もしかしてまだ検査は?」




「してないです。でも確かに生理来てなくて…」




「調べたほうがいいかもしれないですね。子供って見えるみたいなので。」




トイレからみんなで外に出てきて、場所を変えてもまだ奈々の心臓はドキドキと高鳴っていた。




「お姉ちゃんあっち行こう!」




「お姉ちゃんは優奈と手を繋ぐの!」




「2人とも!ごめんなさい騒がしくて。でも双子可愛いですよ!」




天使みたいな2人が自分を取り合いしている姿をみたら、一瞬不安だったものが一気に楽しみになってきた。




「美優!」




「パパ!ほら2人ともパパがきたよ。」




「「パパ!!」」




「じゃあ…お大事に。」




「ありがとうございました。優奈ちゃん、翔斗くん、バイバイ!」




「「バイバイ!お姉ちゃん!」」




まだはっきりはわからないけど




でも先生といつか目の前にいるような家族みたいになれたらーー




「奈々!!」




「先生!?」




後ろから先生が大きな声で自分の名前を呼んできてーー




「よかった…」




「先生どうしたの?」




「あんまり遅いから心配で…」




「ごめんなさい。ちょっと子供たちとお話ししてて。」




「そっか…あ、奈々にサプライズプレゼント。」




「え?」




手渡された先生の飛行機の行き先は奈々が住んでいる九州




「明日は午後に出社すればいいから。」




私が寂しいって言ったから??




少しでもそばにいてくれようとしてくれる先生の気持ち嬉しいーー




先生からたくさんのことを学んだよ




こんなにも誰かを愛し、愛されること




人の温かみも知った




その分、人を傷つけることがどんなに胸が痛いことかもーー




両想いでいられることがどれだけ奇跡かってこと…




私達の出会いが運命なら




あの双子たちが教えてくれたことも運命だよね?





「先生、私からもサプライズプレゼントしてもいい?」




「え?何?」




「うん、あのね、実は――」




私からのサプライズプレゼント喜んでくれるかな?




きっといつもの優しいあの眼差しで私に微笑みかけてくれるよね




ねぇ、先生――






【完】

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ねぇ、先生。 かのん @usagilove

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