ねぇ、先生。

第44話 安奈の嘘～先生ver.～

「安奈！！」

「加奈子…鈴…どうして？」

「どうしてって…お父さんや病院の人が急に安奈がいなくなってしかも連絡がつかないっていうから…どこ行っていたのよ～」

加奈子が安奈に抱きつきやさしく抱きしめる。

「ごめん……ちょっとたまには外に行きたくて…」

「そうかもしれないけど…連絡ぐらいしてよ。」

「……うんッ…」

「え！？どうしたの！？怒っているわけじゃないんだから泣かないでよ～」

「ごめんなさい……ッ…」

「どうしたの？」

「……安奈、どこに行っていたの？」

「え？」

加奈子とは対照的に冷たい目で聞いてきたのは鈴だった。

「どこって…近所を……」

「じゃあこれは何？」

鈴が見せてきたのは北海道行きの航空チケットの半券

ポケットにいれていたのが加奈子が抱きついた表紙で落ちてしまった

「北海道って…奈々に会いに行ったの？」

加奈子が安奈の顔を覗き込むながら聞いてくるが、安奈は泣くだけで返事はしなかった。

「…親戚の子があの塾にいるの。だから安奈が奈々にしたこと聞いたよ？」

「え…？」

「加奈子にも話した。」

安奈は顔をあげて加奈子と鈴の顔を見ようとしたが、どんな表情をしているか怖くなってまた顔を下げてしまう。

「私…北海道に行く前に奈々に会ってきた。どうしてこんなことになったのか気になって。加奈子と一緒に会いに行ったの。」

『奈々…どうして？どうして安奈の相手の人なの？友達じゃなかったの？』

『鈴…たまたま安奈の人が昔からの好きな人だったんだよ。』

『加奈子に聞いてないよ！ねぇ、奈々…』

『鈴の言う通りだよ…許されるとじゃない。許されることじゃないッ……どうして…先生なんだろうッ…』

どうして先生なんだろう？

どうして友達の夫なの？

どうして上司なの？

何回、何十回、何百回考えたって答えはでないーー

『奈々…そんなに好きなの？』

『……』

言葉で答える代わりに奈々は首を縦に振って溢れる涙を拭いて上を見上げる。

『泣いちゃダメだね。ごめん…』

『先生には私からは連絡しないって決めたから。先生も北海道行きに賛同してるみたいだし。』

『いいのそれで？私は奈々のこと応援できないけど、大事な友達だよ…』

加奈子も前回奈々の話を聞いたからか奈々のことをおもうと自然と涙が溢れてくる。

『うん、私は大丈夫。本当は私が安奈のそばで謝り続けないといけないんだけど…』

奈々が深々と二人に頭をさげてくる。

『安奈のそばにいてあげれないから…2人で支えてあげてください。お願いします。』

「奈々…」

「奈々のしたこと許されないことかもしれないけど、でも奈々も十分苦しんでいるよ？なのに…北海道にいって何を話したの？」

「安奈…何しに行ったの？」

「……お腹に…赤ちゃんいるって言いに…嘘をッ…」

“パァンッ…”

「ちょっと鈴！安奈大丈夫！？」

鈴は安奈の顔を思いっきり引っ叩いた。

「命を……軽々しくそんな嘘に使ったらダメだよ！何考えてるの！！」

「……だってッ……健さんは私とは本当は寝たこともない。だけど奈々とはそうだって思ったら…奈々が健さんは私とも寝ているんだよってい知ったらどう思うか知りたかった。」

「…だからって…男と女の駆け引きに命を使うなんて…」

鈴はまだ怒りが収まらず挙げた手を下げたけど拳にしながら手は震えている。

「…奈々はなんて言ったの？」

加奈子は安奈の背中をさすりながら聞いてみた。

「私…奈々は怒り狂うと思ってた。だけど……それどころかおめでとうって…私と健さんの赤ちゃんをおめでとうって言って……私の体を最後まで心配してくれてッ…」

奈々がくれたコートとマフラーを握り締めながら涙が止まらず安奈は加奈子の支えでやっと体を起こしている状態だった。

「奈々は……やっぱり奈々だった。私が知っている奈々だった。」

「馬鹿だよ…安奈も奈々も……馬鹿だよッ…」

安奈を鈴がそっと包み込むように抱きしめる。

「こんな風になってもまだ健さんが好き…奈々のことを好きでも…健さんが好き……」

「安奈…どうして同じ人なんだろうねッ……」

どうして友達の好きな人を好きになったんだろう

友達が…もっと嫌なオンナだったらどんなによかったんだろう

きっとこんなに涙を流すことはなかったはずなのに――