第41話 カラダが離れてもココロは・・・~先生ver.~
「お義父さん…すいません。本当にすいません…安奈を…幸せにできなくてすいません……」
寝ている義父にこんなことをいうことは間違っているけど今すぐにでも謝りたくなった。
安奈にももちろん謝りたいし、目を覚ましたらすぐにでもお義父さんには謝りたい。
支援してもらって、大事な娘を嫁がせてくれたのに・・・
外でタバコを吸いながらふと奈々の顔が頭に浮かんだ。
こんな時だというのに気が緩めば奈々のことばかり考えてしまう――
もう塾に出勤しているだろう…そう思ったけど電話している自分がいた
「もしもし…」
奈々が小声で話をしているからやっぱりもう塾か…
「奈々?聞いた?」
「林先生からさっき…安奈のお父さんはどうですか?」
「うん…まだ危険な状態だ。」
「今は安奈にまだ言わないでください。お願いします。」
やっぱり奈々は安奈のことも極力は気遣ってあげたいんだろう。。。
「…それでいいのか?」
「私にできるのはそれぐらいです。」
「わかった。また連絡する。」
「健さん!」
「安奈、もう少し休まなくていいのか?」
「ここで休む…」
「え?」
そういってベンチに座っている俺の横に座って寄りかかってきた。
「懐かしいね。このベンチ…」
安奈に言われて気づいた
そうだ、このベンチで俺たちは――
「私、人生で初めて告白したんだ、ここで。」
「……」
あの時はまさかこんな風になるなんて思ってもいなかった。
奈々に会いたいとは願っていたけど安奈の友達として再会するなんて…
「健さん…お願いだから、もう少しだけ私にチャンスをくれない?」
「え?」
「院を卒業するときまでにやっぱり好きになれなかったらこの関係を解消しましょう。約束したとおりに…だから院に行くまでもう少し私にチャンスがほしいの。」
「……それは。」
できないと言いたいけど今は話さないと奈々と約束したから、次の言葉が出てこなかった。
「…どうしてうんって言ってくれないの?私がこんなにお願いしているのにッ…」
「安奈…」
「……私を選んでよ!!」
「安奈!!」
安奈は持っていたボストンバッグを投げつけて泣きながら走り去る。
追いかけようと思ったけど、どんな言葉をかければいいのかわからない。
安奈が帰ってくるかもと病室に戻ったけど帰ってこず、家にも帰ってこなかった。
奈々のことも気になったけど、いつ安奈が戻ってくるかわからなかったから奈々に会うどころか連絡すらできなかった。
父親が大好きだった安奈にとって父親の容態は気になっているはずなのに…どこにいったのか…
せめてメールで父親が意識を取り戻したことだけを伝えた
“ピリリリリッ…”
やっと携帯が鳴ったと思って電話に出たら安奈ではなく林先生だった。
「塾長…奥さんが…」
「奈々ちゃんに嫌がらせを…」
「え……?」
嫌がらせって…安奈が奈々に…?
「とりあえず奥さんと今塾にいるんで迎えに来てもらえますか?ここ最近ずっと塾に張り紙して嫌がらせしているんで…連れて帰ってほしいんです。」
「すぐ行く!」
俺が安奈の帰りをひたすら待っている間に奈々を傷つけ、安奈にそんな嫌がらせをさせるほど思いつめていたことに気づけなかったなんて…
こんなに走るのは学生以来――
タバコ吸っている今は体力ないしすぐ息があがって苦しい
でも本当はタバコのせいじゃなくて
息が苦しいのは自分が犯した罪のせいだ
「安奈!」
塾のドアを勢いよく開けると今にも泣きそうな奈々、肩を震わせおびえている安奈、俺をにらみつけてくる林先生――
「先生…」
一瞬奈々が俺のところに駆け寄ってくるかと思った
足が俺のほうへ動いたけど安奈がいることに気づいて踏みとどまる姿をみてまた胸が痛む
「俺が呼んだんだ。とりあえず塾長呼んだほうがいいかなって。」
机の上に並べられた紙には
【横取り女!】
【塾やめろ!】
【先生をやる資格なし!】
こんなことを安奈に書かせてしまったなんて――
「安奈…悪いのは俺なんだ。だから標的は俺にしてくれよ。頼むよ…」
奈々が相手だとどうしてわかったのだろうか…
女性の勘なんだろうか?
「じゃあ傍にいてよ。私を愛してよ。それでどこか遠くへ行こうよぉぉぉ!!!」
たった数日しか経っていないのに食べていないのか元々細い体がさらに小さくて、安奈が子供のように見えた。
泣きじゃくる背中をただたださするしかできない。
「くる…しッ」
「安奈?どうした!?」
安奈の表情をみると息がうまくできていないのか顔色がどんどん悪くなってくる。
呼吸の仕方もおかしく、息をずっと吸っている。
「先生!過呼吸かもしれない!ちょっとどいて!」
奈々がビニール袋で安奈の口元に近づけてくれたが安奈が力強く振り払う。
弱弱しかった安奈とは思えないぐらいの力と目つきで――
「俺、一応病院に連れていくから。」
フラフラと歩く安奈の肩をそっと触ると俺の胸にもたれかかるように歩き出した。
「安奈…大丈夫か?」
弱弱しく首を縦に振る姿を見て少しほっとしながら病院へ向かうためにタクシーを呼び止めた。
「…健さん?」
安奈を先にタクシーを乗せたあとに気づいた
そういえば奈々の顔を見ずに出てきてしまった
奈々もこんなことがあって大丈夫なのだろうか?
「健さん…行こう。」
奈々のことも気になるけど今安奈を一人にしたらまた同じようなことをするかもしれない
そのままタクシーに乗って、明日会えばいい
あとで携帯で連絡をとればいい
そんなことばかり思っていた
俺たちに次はないかもしれないって思ったばっかりだったのに――
奈々に連絡もとれず会えない日々が続くんだ・・・
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