第40話 最悪の展開~先生ver.~
目が覚めるとカーテンの隙間から眩しい光が熱を持っていて、もう朝ではなくだいぶ時間が過ぎたのだろうと思ったら11時半だった。
こんなにもぐっすりと寝たのはいつぐらいだろう
母親の介護が始まってからは夜中でも起こされていたし、安奈と結婚式をあげてからはソファで寝る生活
精神的にも身体的にも奈々と一緒にいることでリラックスできる
「…奈々…奈々…」
この部屋を出たらもうこの名前は呼べなくなる。
だからこそ何度でも・・・呼べる限り名前を呼びたかった。
「ん…」
「起きれる?もう昼前だよ。」
「え!?」
「「イッターー」」
奈々が勢いよく起きてお互い頭をぶつけてしまった
俺は頭をぶつけたからなのか
奈々に恋に落ちた瞬間からなのか
頭はズキズキと痛むのにその痛みさえ愛おしくて仕方ない
奈々が目の前にいるって実感できるから――
今までのこと
これからのことを俺たちは話した
俺と安奈が結婚式をした理由
俺が縁談を受け入れた理由
あのホテルで俺は捨てられたと思ったこと
結婚式の招待状で名前をみたとき俺のことなんてもう何も思っていないと思ったこと――
今まですれ違ってしまって今日に至るまでに時間がかかってしまった
そして…順番は変わってしまったけど安奈との生活は終わりにしないといけない
「安奈と安奈のお父さんと親父と話がしたいと思う。」
「…話ですか?」
「あぁ、このままでいい訳がない。まだ入籍していない今なら引き返れる。もっと早く引きかえすべきだった。」
さっきまでの幸せそうな笑顔からどんどん笑顔が消えていく
奈々は目も俺と合わせず下をうつむき始めた
やっぱり安奈は奈々にとって大切な友達なのだろう
だけどその友達と明らかにこれから亀裂が入る
友達を傷つけてまで自分たちの幸せを優先していいのか・・・
“ピリリリリッ…”
携帯に目をやるとディスプレイには【安奈】の名前
「じゃあ、俺いってくるよ。」
「はい。」
「また、明日塾で…」
「…」
玄関までの暗い廊下がまるで俺たちのこれからの未来のようだ
真っ暗で玄関っていうゴールを開ければ眩しい世界なのに・・・
玄関が重くて開けるには力がいる――
「奈々、大好きだよ。」
この言葉は
本当は何もかも片付いてからいうつもりだった
真正面から奈々と向き合って言いたかったけど
奈々のつらい表情をみていたら言わずにはいられなかった
陳腐な言葉に聞こえるかもしれないけど――
それでも自分がこの言葉を口にすることで覚悟を決めたということをせめて伝えたかったのかもしれない
奈々のあの今にも泣き出しそうな顔で見送ってくれたことを思い出すたびに胸が痛む
つらい思いをさせて申し訳ないって・・・
だけどもう一人つらい思いをさせてしまう人がいる――
「安奈…」
「健さん、いまどこ!?何度も電話したんだよ…」
「安奈…?どうした?」
「お父さんが…危篤なの。」
「わかった、すぐ病院に行くから。」
安奈と結婚式を挙げてからは、どちらの父親も通院はしていたものの元気にやっていたから、心配していなかったのに…
「健さん!!」
病室に入るなり安奈の母親や医師がいるのにもかかわらず抱きついてきた。
「健さん…お父さんがッ…」
人目をはばからず大声で泣く安奈に離れてほしいなんて言えなかった。
「2、3日が山です。」
「そんな…お父さん!いやだよ、お父さん!!」
「安奈、落ち着いて…」
母親が優しくなだめても安奈の耳には入ってこないようだ。
「安奈…俺、着替えとか持ってくるから。」
「え…帰っちゃうの…?」
さっきまでの悲しみにくれていた表情から今度は一気に怒りに満ち溢れた表情になる。
「ダメ!!絶対帰っちゃダメ!」
「安奈…」
昨日電話にも出ず家にも帰らず…安奈だって色々と俺のことは勘ぐっているはずだ
俺が病室を出たらもう帰ってこないと思っているのかもしれない。
「でも安奈、私たちも少し休んだり準備をしたほうがいいわ。」
「準備…?」
「お父さんがもしもの時…」
「お母さん…そんなこと言わないでよ…ッ」
「…人はいずれこのときを迎えるの。そのときに最高の道を残してあげるためにも早く準備してあげたほうがいいわ。」
「…わかった、じゃあ健さんはここにいて。私が家に戻るから。」
「あぁ、わかった。」
「ちゃんと…待っててくれるよね?」
「……あぁ。」
今は何を言ってもきっと取り乱す
安奈にはこんなことになって申し訳なく思っているのは俺も奈々も同じだ
できるだけ…できないとはわかっていつつも極力穏便に奈々のことを話したいと思っていた。
だけどまさかこのあと安奈が俺達二人の思いと
高校時代の俺達の関係を一人で知ることになるなんて――
嫉妬と憎しみと悲しみで・・・安奈を変えてしまった――
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