第34話 奈々の答え~先生ver.~

両家の父親は喜んで




塾の経営も何とかうまくいって




安奈は相変わらず父親の介護で大変そうだったが




結婚式のパンフレットを開いては笑顔も増えていた




塾が立て直したものだから仕事は余計に忙しくて




結婚式の準備は安奈に任せっぱなしだった




だからなのか自分が結婚するっていう意識がなくて




どこか他人事のように感じた・・・












奈々の名前を見るまでは――










「健さん、ちょっといい?」




「あぁ…うん。」




「招待状の返事が届いたから席次作ってみたんだけど…こんな感じでどう?」




「…川端は欠席なんだな。」




「あ、健さんのほうの招待客よね?うん、学校の行事でどうしても抜けられないってコメントに書いてあったよ。」




「そっか…」




このとき久しぶりに奈々のことを思い出した




そして奈々の名前を久しぶりに見た――




「これ…」




「え?あ、大学の友達なの。いつも四人で仲良くしているんだよ。」




早瀬奈々なんてどこにでもいそうな名前だ




だけどこんなことってあるのか?




「大学って何処なんだっけ…?」




「あ、そっか。健さん私がどの大学に行っているのかも知らないんだったね。私○×大学に行っているの。今はお父さんの介護があるからこっちに住んで通っているんだよ。」




早瀬奈々なんて名前は確かにありふれているけど




同じ大学で同じ学年…




やっぱりあの『奈々』なのか?




「奈々と…知り合い?」




「あ、いや…」




何で違うと言ってしまったのだろう・・・




化学部だったといえば言いだけなのに心のどこかで後ろめたさがあって言えなかった




「ねぇ…」




安奈が甘えて腕を組んで顔を近づけてくる




わかっている




彼女が何を望んでいるのか――





「……健さん?」




安奈が目をうっすら開けると目の前にはもう健はいなかった。




「ちょっと会社に行ってくるから。」




そういってコートを着てかばんを持って逃げるように外へ出ていく。




「健さん!」




安奈の声は後ろから聞こえてはいたけど、それでもその声を無視して外へ出る。




外は雪が降っていて




火照った体を冷やしてくれる




本当に忘れることができるのだろうか…?




奈々の名前を聞いただけで




胸が苦しくなって




あの日のことを、高校のときのことを昨日のことのように思い出す




だけど結婚式に来るということはきっと――




俺のことを忘れたんだろう…




俺も前に進むんだ




そう自分に言い聞かせる毎日を結婚式まで過ごした。。。

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