第35話 最悪の再会~先生ver.~
式には安奈の父親も俺の父親も元気に参列できて
安奈のドレス姿を見て安奈の父親は涙を流していた
ドラマでみるようなシーンで感動的なシーンで・・・
だけど俺は新郎なはずなのに実感がなかった
テレビ越しでテレビを見ているような感覚で
二人のその姿をみてどこか胸の奥がチクリと痛んだ――
本当にこれでよかったのか…?
奈々とどんな顔をして再会すればいいのか答えはだせずにいた・・・
式にも参列しなかったから
このまま披露宴にも来てくれなかったらいいのにと願わずにはいられない
『まもなく新郎新婦が入場します。』
司会者の人がアナウンスして、会場が沈まる。
『それでは新郎新婦の入場です!どうぞ!』
分厚い扉が開いて会場のライトが眩しくてゲストの顔は見えなかった
顔は見えなかったのに――
「先生…」
耳元で微かに聞こえた懐かしい声
だけど振り返ることはできなくて…
「奈々?」
テーブル席のほうから名前が聞こえる
やっぱり…奈々だったのか…
席についてゲストのほうを見た時に一年ぶりに奈々の顔を見た
俺は奈々がこんな表情をするなんて知らなかった
今にも泣きそうな目には涙をいっぱい溜めて、何かいいたげな表情で…こんなにも哀しい目をするなんて――
そんな表情をさせてしまっているのは自分のせいだ――
「健さん…?」
「え?」
司会者の言葉なんか耳に入らなくて
だけど目の前のみんながグラスをあげて乾杯をしているのをみて
乾杯の挨拶があったんだとわかった
「安奈おめでとう!!すっごく綺麗だよ!」
グラスを近づけた瞬間杏奈の友達が声をかけてきた
後ろには奈々が暗い表情をして立っている。
「ありがとう、加奈子!あ、私の大学時代の友達で、鈴、加奈子、そして奈々だよ。」
「初めまして、鈴です。安奈がちゃんと大学院卒業できるように見守ってあげてください。」
「もう、鈴ったら~」
安奈は大学時代の友達たちと楽しそうにはしゃいでいた
だけど奈々だけは明らかにテンションが違うのがわかる
「…初めまして、綾部健です。」
きっと奈々は自分の俺のことをここにいる友達には言っていないんだろう
そう思ったら初めましてとしか言えなかった。
「え?でも奈々は初めてじゃないんでしょ?」
しまった…もしかしたらこの友達は何か知っているのかもしれない
でももう後には引けない
「え?そうなの?どこで知り合ったの?」
「あ、えっと、高校の先生で…」
「そっか健さん高校の先生していたんだもんね。」
きっとこの時安奈の中で女の勘が疼いてはいたのだろう
だけどこの時は確信がなかったから何も行動することはなかった――
「ねぇねぇ、健さんどんな先生だったの?知りたい~」
「担任とか教科の担当じゃなかったから…」
奈々も俺に合わせたのか
化学部のことや一年前のことには触れなかった
顧問の担当をしていたといえばすむはずだったのに
後ろめたさがあるからか安奈には言えなかった
事実婚とはいえ妻の友達に
まだ思いを寄せているをこんな形で再会して気づかされるなんて
運命はなんて残酷なんだろう――
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