第22話 手紙
24歳4月終わり――
私は九州にいた。
九州に身を寄せたのは高校の修学旅行で来たからだった。
のどかで食べ物が美味しくて、食いしん坊の私には居心地がよかった。
「早瀬先生!さようなら~」
「はい、さようなら~」
私は『先生』と呼ばれる仕事をしていた。
そう、高校の化学の先生になったのだ。
最初は自信がなかったが、高校の先生になりたくて今年の春ようやく夢が叶った。
それまでは塾や家庭教師をして過ごしていた。
「早瀬!?早瀬じゃないか!?」
「え?」
ジャージ姿の男性に声を掛けられる。
「○○高校にいた早瀬じゃないか!?」
「…川端先生?」
高校時代のとき、綾部先生と仲がよかった先生だ。
「川端先生、どうしてここに?」
「俺今△高校のサッカーの顧問で、今日合同練習なんだよ。だから校長先生に一度挨拶にと思って…」
「そうだったんですか…ご無沙汰しています。」
「メガネかけているし、まさか綾部と同じく白衣きて高校の先生しているとはな~」
私は先生からもらったメガネをかけて教師をしていた。
メガネをかけると勇気がもらえるし、先生が以前童顔だからメガネをかけるという意味が今ならわかるからだ。
「俺さ、早瀬にずっと謝りたかったんだよ。」
「何をですか?」
「お前が二年のときだったかな?俺と綾部の会話聞いてたんだろ?お前も綾部も両思いだったのにさ…」
「え?ちょっと待ってください。頭がついて行かないんですけど…」
「でもお前会話聞いてたんだろ?」
「え…」
思い出そうとするが中々思い出せない。
「担任に日誌を職員室に持っていけって言われてたろ~そしたら職員室の入り口に落ちててさ。綾部が拾って担任に渡したら、お前に持って行けって頼んだって言ってたって、綾部が言ってたぞ。」
「…あ、あの時…」
奈々は日誌を職員室の入り口を落としたことを思い出した。
「その時、俺が『生徒に手を出すなんて犯罪』なんていったから、お前化学部に顔出さなくなったんだろ?」
「…はい。」
そうだ、それで必死に勉強して化学を100点取り続けたんだ。
「綾部さ、お前のそのいじらしい愛っていうのかな~そういうの感じたみたいで、教師辞めてお前に告白したかったみたいだけど、お袋さんに教師辞めるの反対されて…お父さんみたいになるって思ったんだろうな。」
「…知らなかったです。」
「結局お袋さん体調壊して辞めれなくて、お前が卒業してからは介護がいるぐらい体調壊して、教師辞めたんだよ。」
以前先生になぜ教師を辞めたのか聞いた。
その時ははぐらかされたけど、そういう理由があったなんて知らなかった。
「あの時俺があんなこと言わなきゃさ~お前たちうまくいっていたのかなぁなんて思ったらさ…ごめんなぁ。」
「いえ…先生のあの言葉があったから、今の私がいると思います。それに先生とうまくいくかはわからないですし…」
「まぁそういってもらえてよかったよ~」
「川端先生!」
「お!今行く!早瀬、じゃあ、またな。」
「はい。川端先生、お話ありがとうございました。」
「じゃあな!」
そういって川端先生はグラウンドのほうへ走っていった。
川端先生が走ってグランドに行く姿をみながら、奈々は言われたことを思い出していた。
『お前も綾部も両思いだったのにさ…』
「先生…」
ねぇ、先生。
私高校の化学の先生になったよ
先生は元気してますか?
どこで何をしていますか?
先生と離れて暮らしているのにいまだに先生のことを呼びかけてしまう
満開に咲いている綺麗な桜を見ると
色鮮やかな花火を見ると
季節を感じさせてくれる美しい紅葉を見ると
人肌が恋しくなる冷たい風が吹くと
今でも無性に先生に会いたくなる
家に帰るとポストに郵便が届いていた。
あて先をみると実家からだった。
封を開けてみると奈々宛の手紙がさらに入っていた。
奈々宛だけど送り主がかかれていないし送ると母から手紙が入っていた。
封筒には【奈々へ】と書かれていた。
ドキドキしながら封筒を開けてみた。
手紙は三枚ほど入っていて字はギッシリと書かれていた。
最初の文章を読んでびっくりした。
奈々へ
安奈です。
封筒に名前を書いて
もし読まれずに捨てられたら…と思ったら
名前がかけませんでした。
奈々は急いで手紙を閉じた。
もう子供が産まれてもおかしくない時期だ。
子供のことが書かれているのか
先生のことが書かれているのか
どんな内容が書かれているか気になったが、まだ慣れない仕事ということもあり、手紙を閉じてベッドで悩んでいたら寝てしまった。
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