第21話 告白
「今年は寒いな…」
奈々は手をこすり合わせて、時計台の下に立っていた。
雪は降っていなかったが、雪が降りそうなぐらい冷たい空気だった。
「もう24か…ふふッ」
奈々は去年のことを思い出していた。
先生と再会し、それから色んなことがあったことを――
「先生どうしているかな…」
『奈々…』
奈々は声が聞こえたほうへ振り向くが先生はいなかった。
「空耳か…」
奈々はもう一度前を向いて、手に息を吹きかけながら手をすり合わせる。
「え?」
後ろからフワッと誰かに抱きつかれた。
「誰だと思う?」
「…林先生でしょ?」
「やっぱバレた?」
「何で抱きついてくるの?」
「周りがカップルだらけだからさ~今日クリスマスだもんな。」
そう、今日はクリスマスで私の24歳の誕生日だ。
周りはカップルだらけで、みんな仲よさそうに歩いている。
「林先生元気だった?」
「てか博人でいいって…」
「ごめん、ついつい癖で…」
「まぁ、どっちでもいいけどさ。元気してたよ。でも奈々ちゃんいなくなって寂しかったよ。」
「え?」
「あ、みんなだよ、みんな!」
「でもみんな忙しいのによかったのかな?」
「いいんだって!送別会するって約束しただろ!」
そう、今日は最初の塾の送別会を忘年会もかねて奈々のことも招いてくれたのだ。
「地元は隣の県なんだよね?実家帰った?」
「…うん。お母さんに泣かれた。」
「当たり前だよ!」
「仕方ないよね…」
「…今、どこで何してるの?」
「…元気してるよ。」
「本当に誰にも居場所つげないつもりなの?」
「うん…お母さんさえ知らないんだよ?」
「親ぐらい言ってやれよ。」
「…そうしたら博人君聞きに行くでしょ?」
「まぁ…でも周りに誰も知り合いいないんだろ?大丈夫なのかよ…」
「うん!意外と大丈夫だよ…ただ…」
「ただ?」
「こんな肌寒い日は、人肌が恋しくなるよね…」
「奈々ちゃん…あのさ…」
「ん?あ!見て!」
「え?」
「雪だ…」
「本当だ…クリスマスに雪なんてロマンチックだな…」
二人は横断歩道で信号が青になるのを待っていた。
奈々は手を挙げて雪を掴もうとする。
「何してんの?」
「なんかさ、雪が降るとこうしたくなるの…」
右の横断歩道を見るとたくさんのカップルが同じように信号が青になるのを待っていた。
「ほら、あの人だって、きっと雪を…」
「え?誰?」
同じく雪を掴もうとしているのか手を高々と挙げている人がいた。
「嘘…先生?」
手を伸ばして雪を掴もうとしているのは先生だった。
「せんせッ…」
呼び止めようと思ったが、隣に安奈の姿を見て声が出なくなった。
次の瞬間目の前が真っ暗になった。
林先生が手で奈々の目を覆っていたからだ。
「博人君…」
「さっきの続きなんだけどさ…」
「え?」
「俺と付き合わない?」
「え…」
「忘れるにはさ、次の恋っていうじゃん。」
「…」
そう言いながら林先生は手の力を緩め、奈々の視界は明るくなった。
もう信号が青になっていて、先生たちはすでにいなかった。
「とりあえずここのベンチに座ろうよ。先生たちどうせまだ来てないから。」
林先生に促されて奈々はベンチに座った。
「博人君、私…」
「うん…」
「私…やっぱり…」
「待って待って!!」
「え?」
「例えばの話例えばの!」
振られそうになったからか、林先生は告白を取り消そうとしていた。
「いやさ、新しい恋しないのかなって…」
「…」
「新しい恋をしたらさ、きっと忘れられるよ。」
「私さ、思うんだけど、きっと先生のこと忘れられない。おばあちゃんになっても、結婚しても。」
「結婚しても?」
「うん…だって私の色んなものを捧げた人だから。」
先生は初恋、初キス、初体験…色んな経験をした人だ。
「新しい恋をする時は、きっと先生との思い出が薄れた時だと思ってる。だけど今はまだ…薄れそうにないんだ…」
「そっか…」
ショックを受けたのか林先生は背中を丸くした。
「はぁ~よし、飲むぞ!今日は飲むぞ!」
「え!?う、うん。」
林先生の後を奈々は追った。
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