第20話 再び引き裂かれる

先生が出てから10分ぐらいして奈々の携帯がなった。




相手は安奈だった。




「もしもし…」




「外に出てきてくれる?」




外に出てみると安奈が立っていた。




「健さんの携帯のGPS辿ってきた。」




「安奈…あのッ」




「奈々、私のこと友達って思ってる?」




「え?」




「私のこと…友達って思ってくれているなら祝福してくれるよね?」




「え?祝福?」




「そう…お腹に健さんとの子供がいるの…」




そう言いながら安奈は愛おしそうにお腹をなでた。




「父親がいない子供は世の中たくさんいる…だけどそれが友達にとられるなんて…絶対嫌!!」




「お願いだから…健さんも私の前からもいなくなってよぉ…お願い、一生のお願いだよ…お願い…」




そう言いながら安奈は泣き始めた。




まだ寒い北海道は雪がちらついていた。





嘘かもしれない。




私から先生を引き離そうと…




そう信じたい気もするけどそうすれば安奈が嘘を言っていることになる。




だけど、もし本当に妊娠していたら?




大好きな先生の子供だったら?




安奈の子供だったら?





安奈が妊娠したら、相手が先生じゃなかったら喜んでいたはずだ。





子供に罪はない――











安奈に伝える言葉はこの一言しかない――









「おめでとう、安奈。」




自然と優しい表情で祝福の言葉が言えた。




お腹の子がたまたま先生の子なだけで、安奈の子供に変わりはない。




子供に確かに罪はない。




「奈々…」




そんな風に言われると思っていなかったのか、安奈は目を丸くした。




「先生、今いないけど会ってく?」




安奈は首を横に振った。





「このまま空港に行って帰る。」




「ちょっと待ってて。」




奈々は一度部屋に戻り、また安奈のもとへ戻ってきた。




「はい。」




安奈はコートを安奈の肩にかけ、マフラーを首に巻いた。




「北海道寒いでしょ…お腹の赤ちゃんのためにも温かくしないとね。」




「奈々…」




「先生が帰ってくる前に、私出て行く準備する。だから見送りいけないけど…気をつけて帰ってね。」




「奈々はそれで本当いいの?」



「わからない…でもどれがいい答えさえもわからないから…」




「…」




「安奈ともここで…元気な赤ちゃん産んでね。」




「…うん。」




そういって安奈と別れて部屋に入った。




元々荷物は少なかった。




だからダンボールでまとめて実家の住所をかき、必要なものだけトランクにいれた。




先生に置手紙もして――




ねぇ、先生。




このまま二人でどこか遠くに行ったらって考えたら




幸せな気持ちでいっぱいだったよ




だけどやっぱり誰かを犠牲にして幸せになりたいって




今は思えないよ




「奈々、遅くなってごめん。」




先生が帰ってきたのは二時過ぎだった。




「奈々?」




返事もなければ姿も見えなかった。




お風呂やトイレもみてみた、奈々はいなかった。




「買い物か?」




先生はテーブルのところへ座ると紙切れに気づいた。








ねぇ、先生。


私たちが運命なら、きっとまた会えるよね?










「どういう意味だ?…もしかしてッ…」




先生は奈々の服や部屋にある色んなものが無くなっていることに気づいた。




「どうしてッ…」




“クシャッ…”




紙切れを手のひらの中で丸めながら、その手は震えていた。




ねぇ、先生。




私は離れたって寂しくなんかないよ。




きっと私たち、今までみたいにまた出会う気がするの。




先生もそう思わない?




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る