第15話 復讐

今日は先生が塾に来る予定の日だった。




どんな顔して会えばいいのかわからなかったが、平常心でとずっと心に問いかけていた。




「林先生?」




「ビックリした~」




「何しているの?そんなところで…」




入り口のドアのところに林先生は立っていた。




「あ~別に。気分転換?」




「ふ~ん?」




「あ、新しい塾長きたからやっと雑用から開放されるぞ!」




「…え?」




「なんか綾部塾長は本社に戻って、お父さんの下で働くんだって~短い塾長だったよな~」




会うのは怖かったけど本当は少し会えるのが楽しみだった。




このまま塾にいっても会えない日々が続くなんて…




「え~今日から塾長を務めさせていただきます~」




新しい塾長の話はまったく耳に入らなかった。




「…早瀬先生?だよね?」




「え?あ、はい。」




新しい塾長に声をかけられた。




「これなんだけど…心当たりある?」




見せられた紙には【早瀬奈々は最低女!】と書かれていた。




「僕が一番に塾にきたんだけど、ドアや塾の壁一面に貼られててね。林君と一緒に剥がしたんだけど…」




「すいません。ご迷惑おかけしました。」




深々と頭を下げた。




「誰かのいたずらかもしれないし、早瀬先生も気をつけるように。」




「はい。」




塾長に注意されてから、ゴミ箱の中を奈々は漁った。




「おい!何してんだよ!」




止めに入ったのは林先生だった。




丸められた紙を広げてみると




【横取り女!】

【塾やめろ!】

【先生をやる資格なし!】




そういう言葉が色々と書かれていた。




「さっき会ったとき、これ剥がしてくれてたの?」




林先生は質問の答えには答えず、奈々から紙を奪って丸めて捨てた。




「悪戯だって、悪戯。気にすんなよ。」




ポンと奈々の肩を叩く。




「…うん。ありがとう。」




そう、悪戯だ




書かれていることは事実だけど安奈がそんなことするはずない




こんなことしない




そう思いたかった




次の日、また塾に張られたらと思ったらいてもたってもいられなくなった。




もしかしたら今日も貼っていて犯人がわかるかもしれない。




そう思ったら朝7時、塾に走っていった。




塾は学校がある期間は4時に大体先生たちは出勤していた。




まだ朝の7時なのに塾の中の電灯がついていた。




「誰かいるの?」




奈々は恐る恐る中に入っていった。




「林先生…」




「奈々ちゃん…どうして…」




奥にいくと女性が椅子に座っていた。




「安奈…」




ニット帽を深く被り、体が震えていた。




「朝きてみたら紙を貼っている最中で…取り押さえて警察に行くぞっていったら名前言い出して…綾部塾長の奥さんだっていうからそれでここで…」




「安奈!」




勢いよくドアを開けて先生が入ってきた。




「先生…」




「俺が呼んだんだ。とりあえず塾長呼んだほうがいいかなって。」




「早瀬…」




先生はテーブルに並べられた紙を見る。




そこには昨日と同じように名指しで卑猥な言葉が書き綴られていた。




「安奈…悪いのは俺なんだ。だから標的は俺にしてくれよ。頼むよ…」




「じゃあ傍にいてよ。私を愛してよ。それでどこか遠くへ行こうよぉぉぉ!!!」




激しく泣いている安奈の背中を先生は一生懸命さすっていた。




次第に安奈の呼吸が乱れおかしくなってくる。




「くる…しッ」




「安奈?どうした!?」




先生の質問に応答できないぐらい苦しそうな表情をしていた。




奈々は自分の机にいってゴミ袋を持ってきた。




「先生!過呼吸かもしれない!ちょっとどいて!」




奈々はビニール袋を広げて安奈の口元にあてる。




だが安奈は奈々を手で追い払った。




安奈はフラフラと入り口のドアのほうへ向かった。




「俺、一応病院に連れていくから。」




そういって安奈の肩を支え塾を出て行った。




一度も奈々のほうを見ずに出て行った。




「あ~」




林先生の声でビクッとした。




何を言われるかビクビクした。




「お腹空いた。モーニングいかない?」




「モーニング?」




「あ、こっちはないのかな?俺名古屋出身なんだけど喫茶店とかで朝飲み物頼んだからゆで卵とかトーストとかついてくんの。飲み物の料金だけで。」




「…う~ん今開いているのはファミレスぐらいかな。」




「じゃあ、ファミレス行こう。」





「いや、私は…ちょっと!」




林先生は奈々の手を握り強引に塾を出てファミレスに向かう。




林先生の手は関節がゴツゴツしていて、私の手なんてすっぽり包まれるぐらい大人の男性という感じの手だった。




「俺タバコ吸うんだけど大丈夫?」




「うん。」




「じゃあ喫煙席で。」




席に座りメニューを林先生は見ている。




「…頼まないの?」




「お腹別に空いてない…」




「そっか。あ、注文お願いします。」




「えっと、これとこれとこれと…」




林先生が注文している間、外の景色をみていた。




安奈はあれから呼吸は落ち着いたのだろうか。




先生はこれからどうするつもりなのだろうか。




ボーっと考えている間に料理が運ばれてきてお皿がテーブルいっぱいに並んだ。




「朝からこんなに食べるの?」




「食べれるわけないじゃん。」




「え!?残すの?」




「奈々ちゃんなら食べれるかもな。」




元々奈々は大食いだった。




大食いなのは林先生も知っていた。




「最近お弁当も小さいの食べてたし…食べたいのでいいからさ。」




「…うん。じゃあ、いただきます。」




そういってパスタを食べてみた。




「ん!このパスタの味おいしい!林先生も食べてみる?」




「ここは塾じゃないから博人、下の名前でいいよ。」




「博人君も食べてみなよ。」






「ハハハッ…」




林先生はいきなり笑い出した。




「え!?何?」




「だってさっきまで顔色悪そうにげっそりしていたのに、一瞬でガラッと表情変わるからさ。」




「…なんか久しぶりにご飯美味しくてつい…単純だよね。」




「いや、元気な奈々ちゃんのほうがいいよ。」




「そうだよね…よし、ここのテーブルのもの全部食べる!」




奈々と博人との関係が少しづつ縮まってきた。




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