第10話 新居訪問
「え…」
携帯のラインをみて新年早々落ち込んだ。
大学の友達はグループでラインをしているが、安奈が新婚旅行でハワイに行ったから、お土産も渡したいから家にこないかとラインがきた。
「二人の新居になんて行けないよ…」
ベッドに横たわりながら携帯を見つめる。
鈴や加奈子が次々と行くねと返事をしている。
残りは私だけだ。
仕事を言い訳にするのは簡単だけど、安奈の夫は上司だからもしウソがばれたら…
行くという返事しかできなかった。
時が経てば忘れられる、新しい人を見つけたら前の恋なんて忘れられる。
いろんな人がそういうけど、中々気持ちの整理がうまくいかなかった。
新居訪問の日――
「「「お邪魔します!」」」
気乗りがしなかったけど新居へお邪魔してみた。
大学の友達はみんな先生と私のことを知らなかったから、平常心を保ちたかった。
「いらっしゃい!中に入って入って。」
「あ、ご主人、こんにちは。お邪魔します。」
先生がソファで雑誌を読んでいた。
「あ、こんにちは。いらっしゃい。」
目をあわすこともできず、先生がどんな表情をしていたかわからない。
だけど、私の知らない先生がここにいるのは確かだった。
「俺、出かけてくるからごゆっくり。」
「え~残念です。もっと話してみてかった。」
加奈子が残念そうに話した。
「早瀬…」
「あ、お邪魔します。」
「今年もよろしくな。」
「はい、よろしくお願いします。」
「奈々、今年は主人のことよろしくね。」
「安奈も主人なんて言葉が出てくるようになったのね~」
鈴がしみじみとしている。
「じゃあ、ごゆっくり。」
「これ、ハワイのお土産だよ~」
「こんなにたくさんいいの?ありがとう!ねぇねぇ、ハワイどうだった?」
加奈子が前のめりで安奈に話を聞いてきた。
「うん、暖かいし、日本人多くてびっくりした~あと芸能人もたくさんいたよ!」
「もう!そうじゃなくて!新婚旅行としてどうだったのって聞いているの!」
「え~新婚旅行?やめてよ、恥ずかしいじゃん!」
「そうよ、下世話な質問よ。」
鈴がピシャリという。
「あ、でも~」
安奈が頬を赤く染めて言い始めた。
「早く赤ちゃん欲しいかな♪」
「いいな、ラブラブで~」
「何言っているの!大学院卒業してから作りなさいよ!」
「わかってるよ~ちょっと夢みていってみただけだよ~鈴は心配性なんだから~」
「あれ?奈々具合でも悪いの?顔色悪いよ?」
安奈が顔を覗き込んできた。
「あ…うん、ちょっと…」
「あ、ベッドに横になったほうがいいって!こっち寝室だからきてきて。」
ぐいぐいと安奈に寝室に連れていかれる。
寝室にはキングサイズのベッドがひとつ。
シーツが乱れたままだった。
「あ、シーツ新しいのにするからちょっと待ってて。」
「いいよ!!」
「え?」
大きな声で叫んでしまった。
「どうしたの奈々?」
リビングから加奈子と鈴がやってきた。
「あ、ごめん。やっぱりさ新婚さんのベッドはちょっとさ…」
「そうよ、安奈~リビングのソファとかならどう?」
「ううん。私、先に帰るね。ごめんね。」
「じゃあ、私心配だから奈々を送っていくよ。」
加奈子が奈々のあとを追って玄関へむかった。
「安奈、ごめんね。」
「ううん。お大事にね。加奈子、奈々をよろしくね。」
「うん。ご主人にもよろしく伝えておいて。」
“キィ…”
加奈子と一緒に外に出た。
外は眩しくて、肌寒いのにそれさえ心地がよくて、深呼吸した。
私にはまだ二人の新居に足を踏み入れるほど、先生のことを忘れていなかった。
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