第8話 友達の夫は…

先生と一夜をともにしたあの日から一年




さすがに私の連絡先を見たとは思う




でも連絡してこないということはいい関係が築けるとは思えなかった




私も社会人になって半年が過ぎ、一クラス5人という少数人数のクラスなので、とても教えやすく、教壇にたつ緊張もほぐれていった。




だいぶ生徒に授業を教えることに自信がついてきた。




今日は大学の友達の安奈の結婚式で、結局私の就職祝いからなんだかんだで会えなく、今日久しぶりに会えることになった。




「すいません、安奈、えっと神木安奈さんの結婚披露宴はどちらですか?」




「あちらのほうになります。」




「ありがとうございます。」




大事な友達の安奈の結婚式というのに遅刻してしまった。




式から参列するはずだったのに間に合わなく、披露宴からの参加になってしまった。




「こっちだよ、奈々!」









ねぇ、先生。




私今でも思うんだ




どうしてあの日に限って寝坊したんだろうって




寝坊していなかったら違う人生歩めたよね








「はぁ~間に合った~」




「もう、何でこんな大事な日に寝坊するの!?」




怒っていたのはしっかりものの鈴だった。




「いや、本当なんでだろう。ちゃんと目覚ましセットしていたのにな~」




「まぁまぁ、披露宴間に合ったんだし、まだ入場までちょっと時間あるしさ。あ、ドリンク飲む?」




「ありがとう、加奈子。」




「あ、会社から電話だ。ちょっと外に出るね。」




「うん。わかった。あ、奈々、これ安奈のウェディングドレスだよ。綺麗だよね~」




「うわぁ~本当綺麗だね~」




二人で安奈のウェディングドレスの写真をデジカメでみていたら、後ろで親戚の話が聞こえてきた。




「安奈ちゃん、まだ大学院なんでしょ。結婚急がなくてもよかったのにね~」




「でもお父さんがあんな感じじゃね~脳梗塞で倒れて車椅子じゃ、早くウェディングドレス姿見せたいものよ。」




「籍は大学院を卒業してからいれるんだって。」




「でも政略結婚みたいなものだから、急いで籍いれないほうがいいんじゃないかしら?」




「それにお相手のお母様去年自殺なさったんでしょ~経営が悪化したから自殺なさったとか。」







「え…今の話本当なの、加奈子?」




「あ…うん。政略結婚っていうか、お相手の方のお父様の会社があまりよくなくて、それのサポートを安奈のお父さんがするみたいで…」




「え!?大丈夫なの、それ?最近集まっていなかったから安奈がどんな人と結婚するかぜんぜん知らなかった。」




「あ、でもね!さっき安奈に会った時、最初はね、本当嫌だったみたいだけど、イケメンだし、7つ年上で落ち着いている男性で、こういう人なら結婚もいいかもって。」




「7つ?」




なぜだか胸騒ぎがした。




「その人、お相手の人、どういうお仕事しているの?」




「なんかお父さんの経営のお手伝いしているみたいだよ。でもね、安奈幸せそうに笑ってたし、こういう結婚も結局は本人たちが愛し合っていればいいのかなって思ったよ。」




『まもなく新郎新婦が入場します。』




司会者の人がアナウンスして、会場が沈まる。




『それでは新郎新婦の入場です!どうぞ!』




奈々はカメラを入り口に向けて構えた。




BGMと同時に扉が開くと新郎新婦が頭を下げて立っていた。




ゆっくりと頭をあげると――

















「先生…」














「奈々?」




カメラを落としたのも自分で気付かなかった。




幸せそうに笑っている安奈と、いつものポーカーフェイスの表情の先生が隣を過ぎ去っていく。




「奈々、カメラ落としたよ。」




加奈子がカメラを拾って渡してくれた。




「あ、ごめん。安奈のウェディング姿綺麗すぎて…びっくりしちゃった。」




「だよね~私も早くウェディングドレス着たいな~」




『えー新郎の綾部健さんは○○高校の教師をしており…』




「あれ?○○高校って奈々の母校だよね?知ってるの?」




「…知ってるけど、担任や教科の先生じゃなかったからあんまり…」




「はぁ~電話長くなっちゃって、結局入場の時はいれなかった。」




「鈴、お疲れ様~ね、安奈の旦那さん、奈々の母校の先生だったんだって。」




「え!?そうなの?そんな偶然もあるんだね~でも先生が友達と結婚ってびっくりしたんじゃない?」




「あ、うん…もう、本当、びっくりしちゃって…」



『では、かんぱ~い!』



「ほら、奈々もグラスもって乾杯しようよ♪」



加奈子がグラスを渡してくれたけど乾杯する気になれなかった。



「あ、ねぇ、今のうちに写真撮りにいかない?」




「さすが鈴~だよね、今のうちにいこう!新郎さんにもご挨拶したいし!」




「あ、私は後ででいいや…」(今は先生の顔も安奈の顔もみれない)




「でもお色直しとかあるだろうし、今だけだよ、ほら、行こう!」




鈴に引っ張られて二人がいる雛壇に向かった。











どうして先生の隣にいるのが

        私の友達なんだろう








「安奈おめでとう!!すっごく綺麗だよ!」




加奈子が安奈に抱きついた。




「ありがとう、加奈子!あ、私の大学時代の友達で、鈴、加奈子、そして奈々だよ。」




「初めまして、鈴です。安奈がちゃんと大学院卒業できるように見守ってあげてください。」




「もう、鈴ったら~」





「…初めまして、綾部健です。」




先生は一瞬びっくりしながらも、ポーカーフェイス戻っていた。




今日はあの日と違ってメガネをかけていた。




「え?でも奈々は初めてじゃないんでしょ?」




加奈子が話を振ってくる。




「え?そうなの?どこで知り合ったの?」




「あ、えっと、高校の先生で…」




「そっか健さん高校の先生していたんだもんね。」




先生の隣で笑う安奈が私には眩しかった。




「ねぇねぇ、健さんどんな先生だったの?知りたい~」




「担任とか教科の担当じゃなかったから…」




部活の顧問だったって言えばいいのにどうして言えないんだろう。




何となく隠しておきたくなっていた。




「じゃあ逆に奈々はどんな生徒だったの?」




「早瀬は…化学で100点を取る、そんな生徒だったよ。」




「100点!?すごいじゃん!でもなんで健さんは奈々のこと知っているの?接点ないんでしょ?」




「化学の先生だったし、100点とれば話題にもなるよ。」




「それもそっか~」




私も先生もなんとなく皆に接点があったことを隠した




先生と私の秘密――




これぐらいはいいよね?




神様、どうしてこんな運命を与えたの?




何度も先生とこうやってめぐり合えるのに




こうやってすれ違うのが私たちの答えなの?




それともまだ私に過酷な人生を与えるの?

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