第3話 この恋愛は罪
中学の頃は理科が苦手でテストの点数もよくなかった。
高校に入った当初も授業についていけなかった。
だけど化学部に入部して、綾部先生にわからないところを教えてもらうようになってからは成績がぐんぐん上がった。
今では化学のテストは100点が多かった。
先生にメガネをもらったあの日から、先生と二人きりになることはなかった。
あのあと、化学部の先輩たちや受験生の人たちが先生に化学の質問をしにきたからだ。
卒業したあとは、下級生がなんだかんだで化学部に顔を出すようになった。
クラスの担任でもない、教科の担任でもない私にとって願いはただ一つ。
今日こそ先生と二人きりになれますように――
先生からもらったメガネはなんとなく先生との秘密にしたくて、ずっと鞄にいれたままだった。
「あ、早瀬!今日日直だったよな?」
化学部へ急いで向かいたいのに、クラスの担任が話しかけてくる。
「悪い、これ俺の机に置いといてくれるか?」
渡されたのは学級日誌だった。
「はい…」(急いでいるのに…しかも日直じゃなくてもいいような。)
急ぎ足で職員室へ向かった。
「失礼しました~」
「ちゃんと進路表明日までに出せよ!」
三年の先輩なのだろうか、中から綾部先生の声も聞こえてきた。
(先生まだ職員室にいたんだ。)
職員室のドアの隙間から先生の声が聞こえてきた。
「しかしお前も大変だな~」
綾部先生に話かけていたのは、綾部先生と仲がいい川端先生だった。
「今の生徒といい、二年の早瀬といい…」
(え?私?)
職員室のドアに手をかけた状態で体が固まってしまった。
「学年主任に言われたんだろう~二年の早瀬さん、入学当初は成績が悪かったのに、今では化学が一位なんて個別指導しているんじゃないですか!?この間のテストも100点だったみたいだけど、あなたテストの内容を教えているんじゃないですか!?って。目をつけられているよな~自分のクラスが化学の点数が悪いからってさ。」
「でもあれは早瀬の実力だよ。」
「まぁ、それに生徒に手を出すなんて犯罪だよな。」
「あぁ…」
やっと固まっていた体が動き出した。
力が緩んだ反動で持っていた学級日誌をその場で落とした。
その場から逃げ去りたい気持ちでいっぱいで、学級日誌のことなんか頭になくて、とにかく思いっきり走った。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
教室に走って帰ると誰もいなかった。
自分の机に座り、自分の息を整えた。
(先生、私のせいで学年主任にそんな風に思われていたんだ…それにやっぱり先生と生徒で何かあったら迷惑をかけるのは先生だ…これ以上迷惑をかけるのはやめよう。)
鞄の中から先生にもらったメガネを取り出す。
「この恋は罪なんだ…」
まだまだ幼い私にとっては、その言葉が突き刺さった。
先生に迷惑をかけたくない、自分の想いを抑えることしか思いつかなかった。
その日以来私は化学部に行くことはなくなった。
学年主任に見せ付けるかのように、それからずっと化学で100点をとり続けた。
学年主任の誤解は解けたのだろうか。
もともと先生とは化学部以外で接点がないから、学校ですれ違うこともほとんどなかった。
だけど
先生の声が遠くから聞こえるたび
実験室を通るたび
全校集会で先生の姿をみかけるたび
胸が苦しくなった
今すぐにでも話しかけたくなった
ねぇ、先生。
あの頃みたいに先生に話しかけたいよ
でも今話しかけたら、先生への想いがあふれ出る
今でも抑えるので必死だよ
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