第2話 メガネ
早瀬奈々、18歳。
高校一年からずっと、綾部先生に恋をしてきた。
すらっと伸びた身長、清潔感が漂う身なり、メガネをかけていかにも先生っていう感じだった。
完全に一目ぼれだった。
担任にもならなくて、授業も先生が担当することがなく、接点を何とか持ちたくて先生が顧問する部活にすぐ入部した。
化学部だった。
化学は苦手だったけど、今では部活に入ってよかったと思っている。
結局先生とは三年間担任にもならず、授業も受けることがなかった。
“ガラガラガラ…”
「今日も早瀬だけか?」
「綾部先生!はい、私だけみたいです。」
化学部は3年生の人達が主で活動をしていたが、受験で忙しく2学期になってからは顔を出さなくなった。
私みたいに一年生や二年生は部活の掛け持ちをしてあまり顔を出さなかった。
私は化学部だけだったから…先生に会いたかったから化学部優先だった。
「早瀬は毎日部活に顔出すけど、誰もいない時は暇じゃないのか?」
「暇じゃないです。宿題ずっとしているんで…それに化学でわからないところは先生に教えてもらえますし。」
「最近化学どうだ?前よりわかるようになったか?」
「はい!先生の教え方すっごく上手で最近テストの点数よくなりました!ありがとうございます。綾部先生に授業も教えてもらいたかったな。」
「来年か再来年な。」
「先生、それ…」
手にプリントと一緒に綺麗にラッピングされたマフィンを持っていた。
「ああ、クラスの女の子から、家庭科で作ったって言われて…」
「そうですか…」(いいな、私もあげればよかった。同じクラスってだけでも羨ましい。)
「フッ…」
「え?あ、何か顔についていますか?」
「早瀬、お前って顔に出やすいのな。」
いつもツンとした顔が柔らかい表情になった。
この笑顔に大半の女子生徒はやられる。
「一緒に食べるか?」
「え!?はい!あ、いや、でも…」
「ん?どうした?」
「でも先生に渡したものなんで…やっぱりちょっと…」(ヤキモチは妬くけどその子のこと考えるとちょっと)
「優しいんだな、お前は。」
そういって頭をぽんぽんと二回、先生はなでてきた。
奈々は耳まで真っ赤になりゆでタコのようになっていた。
「じゃあ、俺のコーヒーに付き合ってくれるか?」
「はい!」
“カチャ…”
初めて準備室に入った。
先生はいつも準備室にいたが中に入ることはあまりなく、私はいつも隣の化学室で宿題をしていた。
隣の部屋であっても、先生が傍にいてくれる、それだけでよかった。
“カチャカチャ…”
先生はコーヒーをいれる準備をしてくれていたので、奈々は先生の机などをキョロキョロと見ていた。
「砂糖やミルクは?」
「お、多めでお願いします。」
「コーヒーじゃないな。まだまだお子様だな。」
子供扱いされ、唇を尖らせて不機嫌な顔を奈々はした。
「はい、お子様コーヒーどうぞ。」
「お子様って…先生と7歳しか違わないですよ。」
「ブラックコーヒーが飲めるようになったら大人扱いするよ。」
「え、これメガネ?」
先生のパソコンの上に赤のメガネが置かれていた。
「先生メガネしていますよね?」
「…メガネが好きでたくさん持っているんだ。」
「これ度が入ってない…」
「ばれたか…ダテメガネなんだよ。おれは視力はいいんだ。」
「じゃあなんでメガネしているんですか?」
先生が自分のメガネを外す。
「メガネしてないとかなり若く見えて…コンプレックスなんだよ。」
メガネをしているとちょっと怖い先生という感じだが、確かにメガネを外すと幼くみえて可愛らしかった。
「うん…確かにそうですね。」
「メガネしていない顔を見せた生徒は早瀬だけなんだから、内緒にしろよ。」
「はい!」(先生との秘密でうれしい!)
「早瀬ちょっとこっち来て。」
奈々が先生に近づくと手に持っていたメガネを先生が奈々にかけた。
指先が奈々のこめかみに触れるか触れないか、髪の毛は神経がないはずなのに先生の指に触れられ、胸のドキドキが止まらなかった。
「うん…早瀬はメガネすると変わるな。」
「え…あ、大人っぽくみえますか?お子様卒業できそうですか?」
「うん、俺好みの女だな。知的に見えるけど、どこかエロくて触れたくなる。」
「せ、先生…?」
先生にスラッと伸びた綺麗な指が、どんどん奈々の唇に近づいてくる。
奈々にはスローモーションのようにかなりゆっくりに見えた。
「綾部先生、綾部先生、至急職員室に来てください。」
校内アナウンスが流れた。
先生の手が止まった。
「先生が生徒に欲情することはないけどな。」
先生は椅子から立ち上がり準備室を出て行く。
先生は急に振り返り、奈々の方に顔を向ける。
「そのメガネ、早瀬にあげるよ。」
「いいんですか?」
「うん、さっきのは冗談にしても似合っているよ。」
「あ、ありがとうございます。」
先生はそのまま部屋を出て行った。
「はぁ~」
奈々はその場に座り込んだ。
「すっごいドキドキしたぁ~」
ゆっくり立ち上がり部屋の中にあった鏡で自分の姿を見る。
先生に言われたことを思い出しながら自分でメガネを触ってみた。
自分の指が髪の毛に触れても何も感じない。
神経がないはずの髪の毛から全身にビリビリと感じたあの感触…
また感じてみたい、先生に触れてほしい、
そう思った高校一年の二学期――
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