第二部 因縁巡りの一月

笛の音たどれば ――アリア&ヴェルゼ

10-Aー1 序 新しい年にお祝いを!

【笛の音たどれば】――アリア&ヴェルゼ


 不思議な不思議な店がある。魔法の王国の片隅に。

 店の扉を開ければ、魔導士の姉弟が客を迎えてくれるだろう。

『願い、叶えます! アリア&ヴェルゼ』

 看板には、そんな文言が書かれている。


  ◇


「新しい年に、お祝いを!」

 にっこりとアリアは笑う。

 年が明けて、帝国暦1458年。世界の中央にある帝政アルドフェックが出来て、もうそんなに経つらしい。

 色々あった、過ぎた年。今年はどんな日々になるのだろうか。

 穏やかな新年。アリアたちは、店でささやかなお祝いをしていた。

「新年、ですかぁ……」

 ソーティアが感慨深げに、声をもらす。

「フィドラさんの話によると、故郷のカディアスの町も復興しつつあるようですし。たまには戻らないとなりませんね。ああ、もちろんここは大好きなのですが……でも、それでも」

「分かるわよ、ソーティアちゃん」

 アリアも、つと遠い目をする。

「戻る、ね。そうよね、あたしたちも、いつかは戻らなくっちゃ。まだこの因縁は終わってないんだから」

 笛つくりの町エルナス。シドラに嵌められて追放された。

 この因縁とは、いつか決着をつけなければならない。このままで放ってはおけないものだ。

 アリアもヴェルゼもソーティアも。簡単に故郷に帰れるわけではない。それぞれ事情を背負っている。

「…………」

 そんなアリアたちを見ながら、亡霊デュナミスも目を細めていた。

 戻ってきたらしい記憶。彼は一体何者なのか。訊ねてみても、はぐらかされるばかり。そんな彼にも、「帰れない故郷」なんてのがあるのだろうか。

「シドラ……十一月に、言ってたよな。『エルナスで会おう』って」

 ヴェルゼが難しい顔をする。

「あれってさ……何か、近いうちにまた会うような気しかしないんだが。怪しいよな」

「そうねぇ……」

 十一月。ソーティアを自分の側に引き込もうとして失敗したシドラの残した捨て台詞が気がかりだったが、どうせ何かは起こるのだ、今気にしても仕方のないことだろう。起こった時に対処すればいいやと思う。

 アリアは自分の作った料理にかぶりついた。今年のお祝いはお肉である。お祝い料理なんて滅多に作らないけれど、作ってみたら案外上手くいくものだ。この料理も、エルナスで教わったんだっけと考えると、胸の奥が少し痛くなる。

 アリアのお祝い料理を食べながら、ソーティアは笑顔だった。ヴェルゼも微笑んでいた。ただ、亡霊ゆえに飲み食い出来ないデュナミスだけが寂しそうではあったが、でもその表情は穏やかだった。

 穏やかな新年。優しい新年。

 大晦日の夜まで降っていた雪は止んで、外では太陽が顔をのぞかせていた。

 新しい年。不安だってあるけれど。きっときっと乗り越えられるとアリアは確信する。

――だってあたしには、こんな素敵な仲間がいるんだもの。


  ◇

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