Bー5 束の間の休息はとても優しく
それから時が経ちソーティアは。サルフの家にご厄介になりつつ、できる限り彼のお手伝いをするようになった。身体は完調とは言えないけれど、命の恩人だ。何かしないと気がすまないのだ。
そんな冬の日々の中、サルフが氷の魔導士であることが判明した。
その日、近くの川が、凍りかけてはいたが凍ってはいないという面倒くさい状況になっていた。近くに橋はない。この時期はいつも、凍った川を渡って向こう岸に行く。凍りかけた川を渡ったら凍傷になる。いや、その前に体温低下で死ぬ。しかし向こう岸に渡らなければ、薪が買えない。
そこで。
「ソーティア嬢、少し離れていなさい」
おもむろに手を突き出した彼を見て、ソーティアは首をかしげつつもさがる。
すると。
「――凍れ」
鋭い声が、川を渡っていって。
「よし、できた」
川の中、一本の氷の橋が、サルフの目の前に現れた。向こう岸までしっかり届いている。橋にはご丁寧に、手すりまでついていた。
ソーティアの目には、青い
恐る恐る、問うた。
「えっと……氷魔法、ですか……?」
ええ、とサルフが頷く。。
「当たり。私は氷の魔導士でもあるのです。……視えましたか?」
「え、ええ……。青い
もちろん、と彼は頷く。淡雪のような笑みが、ソーティアに向けられた。
「氷の魔導士は橋しか作らないってわけではないですからね。機会がありましたら今度、お見せしましょうか?」
ソーティアの目が、好奇心に輝いた。
「見せてください! ありがとうございますっ!」
うれしそうなソーティアを見て、サルフはまんざらでもなさそうだった。
ソーティアはサルフのくれた、真っ白なフードつきローブをきゅっと握りしめた。これをかぶっていれば、イデュールだとばれない。それにとても暖かい。これは、サルフがソーティアの為にと、わざわざ買ってきてくれたものだった。
「じゃ、行きましょう! 薪を買いに!」
手すりにつかまりつつ、スキップしながら、ソーティアは氷の橋を渡っていった。
◇
「サルフさまは、どこからいらしたのですか?」
一回、訊いてみたことがある。
すると、彼の顔が明らかにかげった。訊いてはならないことを訊いた時のように。
それを見て、ソーティアはあわてて謝罪した。
「あ、すみません、嫌なこと訊いてしまいましたか? なら言わなくても結構です!」
サルフは暗い笑みを浮かべて、言った。
「……私のこの『サルフ』という名も偽名ですよ。過去はとうに捨ててきました」
「あ、ヘンなこと訊いてごめんなさい」
申し訳なくなって、うつむくソーティアの頭をサルフが撫でた。
「あなたが謝ることではございません。気になって当然です。仕方のないことですね」
「でも……」
その日はよく会話が続かなかったのを覚えている。気まずい一日だった。
サルフには、触れて欲しくない過去があるのだと学習した。
◇
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