9-5 終 人形使の恩返し


 その後。

 絡繰人形館で、アリアたちはイヅチの回復を待つことになった。

 仕方なく負わせたものとは言え、イヅチはそこそこの傷を負っていた。

 シヅキたちから事情を聞いた彼は、そうかいと苦笑いを浮かべた。

「ミツキ……成程あいつが。ぼくとしたことが、やられたもんだ。人形使が人形になるとか笑えない」

 きみたちには、お礼をしなくてはねとイヅチは言う。

「シヅキ、奇跡の香木を持ってきてよ。後は……そうだねぇ、これでどうかな?」

 イヅチが渡したのは、七色の輝きを宿す宝石だった。

 あまり現金は持ってないのさと彼は言う。

「少し手間が掛かるから申し訳ないとは思うんだけど……これ、王都の宝石商に売れば百万ルーヴは超えると思う。ただの蛋白石オパールじゃないよ。中には、ある大魔導士の遺産たる魔力がこもってる。前の依頼でもらったんだけど……あげるよ」

 そんな貴重なものを? と驚き眉を上げるアリアに、命とは換えられないからねとイヅチは笑顔を向ける。てのひらの宝石からは、温かくて強い力を感じられた。

 しばらくして。

「兄さま……これよね?」

「そうそれ。ありがとうシヅキ」

 香木を取りに行っていたシヅキが戻ってくる。彼女の手には、中に小枝の入った小さなガラス瓶があった。中に入っていた小枝は、とにかく白かった。

「これは……?」

「オルファ香」

 瓶を渡しながらもシヅキが答える。

「焚けばどんな毒だって何とか出来る、魔法の香木。限られた地域の限られた場所にしか生えない、奇跡の香木。きっと役に立つ場面は多いと思うわ」

 ちなみにこれだけで、十万ルーヴは下らないのと悪戯っぽく笑うシヅキ。相当の貴重品である。

 アリアはぺこりと頭を下げた。

「とっても貴重なもの、どうもありがとう。大事にするわね。さてと……」

 胸を張って、いつもの決め台詞を口にする。

「頼まれ屋アリア、依頼、完了しましたっ!」

「ふふっ、とても助かったよ」

 イヅチは笑った。

 その肩の上には、修理されたミカルがのっかっている。

「今回も色々あったけどさー、会えて良かったなって思ってるんだよね。ボクたちまた会えるかな? その時はさ、今度こそ何もない平和な時がいいねっ!」

 そうねとアリアは頷く。

「四月にさ、あたしの誕生日があるのよ。良かったらその日、お祝いに来てくれない?」

「いいねぇ、それ! 行こうよイヅチぃ、シヅキぃ!」

 笑うミカル。

 彼女たちに見送られて、アリアたちは人形館を去った。


  ◇


「しかし……またあいつと戦えなかった」

 店に戻り、ヴェルゼは文句をこぼす。

 怪我してたんだから仕方ないじゃないとアリアは返す。

「それにしても……ヴェルゼがそこまで他人に興味を示すのって、珍しいわよね」

「あいつ、ちょっとやばい気配がするからな。気になるんだよ。それより

「なぁに?」

 振り返ったアリアは、凍り付いた。

 ヴェルゼが、満面の笑みを浮かべていた。

「勝手な行動されたことについて、話があるんだけどな?」

「あ、待ってヴェルゼ。あれはね、あたしがね」

「戻ってきたオレがさ、どれだけ心配したか分かってるか? 

「あ、だからねあれは落ち着いてヴェルゼ!」

 その後。

 アリアがヴェルゼにたっぷりと絞られるのは別の話。

 そんな様を、デュナミスは茶化すように、ソーティアは困ったように、見ていた。


【完】

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